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M&Aに際し少数株主を排除するスクイーズアウト手続きについて司法書士が解説。
スクイーズアウトの概要と目的
スクイーズアウトとは、企業買収(M&A)などの場面で少数株主を強制的に株主から排除し、株式の持ち株比率を100%にする手法を指します。
具体的には、大株主(買収者)が少数株主の保有する株式を金銭などの対価と引き換えに取得し、対象会社を完全子会社化(全株式を支配)することを目的とします。この手法を用いることで、企業は少数株主の意向に左右されず迅速な意思決定が可能となります。
例えば、MBO(経営陣買収)の一環で発行済株式を100%集めたい場合や、株主が多数散在して個別交渉が非現実的な場合にスクイーズアウトが活用されます。
スクイーズアウトには複数の手法があり、日本法では主に ①株式併合、②株式売渡請求、③全部取得条項付種類株式、といった方法が用いられます。
以下では、それぞれの手法の概要や手続、メリット・デメリット、関連法制度について解説します。
株式併合によるスクイーズアウト
株式併合とは、複数の株式をまとめて株数を減らす手法です。スクイーズアウト目的では、大株主以外の少数株主が端数株(1株未満の端数株式)しか持てない比率で併合を実施し、その端数株式を会社が買い取ることで少数株主を排除します。
例えば「10,000株を1株に併合する」といった比率にすれば、10,000株未満しか持たない株主はすべて端数株主となり、その持株は端数として処理され金銭交付のみを受ける形になり、結果的に少数株主は締め出されます。
手続きとしては、株主総会の特別決議を経て併合を行います(会社法180条)。併合比率の決定後、会社は効力発生日以降に端数株式をまとめて競売又は任意売却し、その売却代金を少数株主に割り当てます(通常は大株主または会社が端数を引き受け金銭交付します)。
会社が端数株式を買い取る場合、その支払いは資本の払い戻しとみなされるため、対応する剰余金(分配可能額)が必要であり、不足している場合は取締役が填補責任を負う点に留意が必要です。
実務上は併合前に十分な剰余金を確保しておくか、大株主に端数株式を買い取らせる形にすることで対応します。
メリット:株式併合は既存の会社法の枠組み内で行えるオーソドックスな方法であり、特別決議を経れば少数株主の同意がなくても効力が発生します。
大株主が所定の議決権割合を握っていれば確実に実行でき、手続も比較的明確です。また株主総会で承認されれば直ちに効力が生じるため、併合完了後はすみやかに組織再編など次の施策に移れます。
デメリット:一方で株主総会を開催する必要があり、 上場企業では招集通知や決議に時間とコストがかかります。また併合により端数株式が発生するため、その処理のために裁判所の許可手続(端数の任意売却の申立て等)を要する場合があります。
さらに、少数株主は併合比率や買取価格に不服がある場合、株主総会決議取消の訴えや買取価格の決定申立て(会社法182条の5など)によって争う可能性があります。
実際、株式併合によるスクイーズアウトでは「手続に瑕疵がないか」「価格が公正か」が争点となり得るため、対価の公正性と手続の適正さを担保することが重要です。
株式売渡請求によるスクイーズアウト
株式売渡請求とは、平成26年の会社法改正で新設された大株主による少数株主の株式強制買取制度を指します。正式には「特別支配株主の株式等売渡請求」(会社法179条以下)といい、対象会社の議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、会社を通じて他の少数株主に対しその株式を売り渡すよう請求できる制度です。
この制度を用いることで、特別支配株主(買収者)は株主総会を経ずに少数株主の株式を強制取得できます。
手続の大まかな流れは、特別支配株主から対象会社へ売渡請求の条件(取得対価の金額や計算方法、取得日など)を通知し、対象会社の取締役会承認を得た上で、少数株主に対し取得日の20日前までに通知・公告を行います。
取得日が到来すると、法律の規定に基づき少数株主の株式は特別支配株主に一括移転し、少数株主には通知された金銭等の対価が交付されます。これにより特別支配株主は100%株式を取得し、スクイーズアウトが完了します。
メリット:株式売渡請求(株式等売渡請求)の最大の利点は手続の迅速さと簡便さです。株主総会の特別決議が不要で取締役会決議で足りるため、スケジュールを大幅に短縮できます。また端数株式の処理が発生しないため、裁判所を介した非訟手続等も不要で、実務上の手間も少なく済みます。
加えて、取締役会決議のみで完結するため費用の節約にもなり、条件さえ満たせばこの方法を選択しない手はないといわれるほどです。
デメリット・留意点:最大の制約は特別支配株主になれるほどの株式保有(90%以上)が前提となることです。
少数株主の保護策としては、買取価格の不服申立て(価格決定の申立て)が認められており、少数株主は取得対価が公正でないと考える場合、裁判所に価格の決定を求めることができます。ただし、この申立ては対価の妥当性を事後的に争うもので、スクイーズアウト自体の効力を止めることはできません。
全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウト
全部取得条項付種類株式を利用する方法は、会社法が定める強制取得可能な種類株式の制度を応用したスクイーズアウト手法です。
全部取得条項付種類株式とは、あらかじめ定款で定めた場合に「会社が株主総会の特別決議を経てその種類株式の全部を取得できる」性質を持つ株式であり、少数株主の個別同意なしに会社が株式を召し上げることが可能となるものです。
スクイーズアウトでは、この制度を活用して一旦すべての発行済株式を全部取得条項付種類株式に変更し(定款変更)、続いてその全株式を会社が取得(強制買取り)することで少数株主を排除します。
具体的な手続の流れは次のとおりです。
まず、対象会社が種類株式発行会社でない場合は定款を変更して種類株式制度を導入し、発行済みの普通株式を新設する「全部取得条項付種類株式」に変更します(株主総会特別決議)。
次に、株主総会で会社が当該種類株式を取得すること(強制取得)を決議し、取得対価(現金や親会社株式など)を定めます。この決議により、会社は全株式を取得し、株主に対価を交付します。
実務上は、一度全株主に対して一律に株式(親会社の株式や自己株式など)を対価として割当てる形をとりつつ、少数株主に割り当てられる株式が端数となるよう比率を調整します。そして、発生した端数株式を会社(または大株主)が買い取ることで、結果的に少数株主には金銭のみが交付される仕組みを作ります。
このように端数の発生を利用して現金交付を実現する工夫により、他の株主には株式(または別の対価)を交付しつつ、スクイーズアウト対象の少数株主だけを実質的にキャッシュ・アウトすることが可能となります。
メリット:全部取得条項付種類株式を用いる最大の利点は、少数株主を現金で排除する柔軟なスキームが組めることです。
特別決議による定款変更と取得決議さえ成立すれば、90%未満の株式保有でも実行できるため、必ずしも特別支配株主になる必要はありません(必要なのは議決権の2/3以上の賛成確保です)。
デメリット:しかしこの手法は手続が極めて複雑であり、実施にあたって専門的な設計と周到な準備が必要です。まず複数段階の株主総会特別決議(種類株式の発行定款変更と取得決議)を要し、少数株主の反対が強い場合には決議取消訴訟など争訟リスクが高まります。
また前述のように対価の割当てスキームも巧妙な調整が必要で、一歩誤ると差別的扱いとして無効主張されかねません。その上、結局のところ端数株式を発生させて買い取る点では株式併合と類似しており、端数処理の手間(裁判所への任意売却許可申立て等)や公正な価格算定といった課題は残ります。
近年は会社法改正でより直接的な株式等売渡請求制度(前述)が整備されたため、全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウトは実務上選択されるケースが減少しています。もっとも、公開買付け開始前から既に買収者が2/3超の株式を握っているケースなど、条件次第では採用されることもあります。
いずれにせよ本手法は争訟性が高く法的リスクも大きいため、実行時には周到な事前準備と専門家の検証が不可欠です。
以上、M&Aにおけるスクイーズアウトについて解説しました。スクイーズアウトの手続きやこれに伴う商業登記申請は、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。
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