合併(吸収合併、新設合併)の法的手続・登記手続について解説。企業再編、M&Aに有用。

今回は、会社の合併の法的手続き、登記手続きについて解説します。

会社の合併とは

合併の種類

会社の合併は、ドラマの中のM&Aシーンなどでよく使われるため、皆様もなじみのある言葉なのではないでしょうか。

典型的な合併は、吸収合併というもので、消滅会社の一切の権利義務を存続会社が承継し、消滅会社は解散するというものです。

合併には、もう一種類、新設合併というものがあります。これは、A社とB者が合併し、新しい甲社を設立して、A社とB社の全ての権利義務を承継させるというものになります。

特殊な合併としては、三角合併というものがあり、A社がB社を吸収し合併する際に、B社の株主に対して、A社の親会社であるZ社の株式を対価として交付するものになります。

 

合併が可能な会社の種類

株式会社、合同会社、合名会社、合資会社はいずれも、吸収合併存続会社、吸収合併消滅会社、新設合併消滅会社、新設合併設立会社のいずれにもなることができます。

清算会社中の株式会社は、自らを消滅会社とし、存立中の会社を存続会社として合併をすることができます。

また、特例有限会社は、吸収合併において、消滅会社にはなれますが、存続会社にはなることができません。

 

合併の法的手続・登記手続き

ここでは、合併をする際の手続きの流れをご説明します。吸収合併と新設合併では、手続きが異なる部分がありますが、大きな流れは同じとなります。

① 合併契約の締結

まず、合併の当事会社同士で、合併契約を締結します。契約の前には、取締役会等によって、契約締結に関する組織決定を経ておく必要があります。

グループ内再編ではなく、M&Aの場合は、存続会社は消滅会社に対して、DD(デューデリジェンス)を実施し、条件交渉の上、合併契約を締結することとなります。

 

合併契約書に記載する必要がある事項は、以下のとおりです。(株式会社が存続する吸収合併契約の場合。会社法749条)

・吸収合併存続会社、消滅会社の商号及び住所

・消滅会社の株主等に交付する対価に関する事項(金銭、株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債等)

・上記対価の割当てに関する事項

・吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して交付する、代わりの新株予約権又は金銭に関する事項

・上位の新株予約権又は金銭の割当てに関する事項

・吸収合併の効力発生日

 

② 株主総会の承認決議

合併は、原則として、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議により合併契約の承認を得ておく必要があります。

ただし、簡易合併や略式合併の場合は、株主総会の決議を省略し、取締役会決議又は取締役過半数の決定により、承認することができます。

 

簡易合併とは、吸収合併存続会社が消滅会社に対して与える対価の額が、存続会社の純資産の5分の1を超えない場合の合併を指します。

この場合、存続会社では、株主総会の承認決議は不要となります。

ただし、合併差損がある場合及び合併対価が非公開会社の譲渡制限株式の場合は、簡易合併は認められません。

 

略式合併とは、吸収合併において、当事会社の一方が他方の特別支配会社(議決権の10分の9以上を直接又は間接に保有し支配)である場合の合併を指します。

この場合、被支配会社において株主総会の承認決議は不要となります。

ただし、合併対価が非公開会社の譲渡制限株式の場合、及び消滅会社が公開会社かつ種類株式発行会社でなく合併対価に譲渡制限株式を含む場合は、簡易合併は認められません。

 

③ 債権者保護手続

合併においては、消滅する会社の債権者及び消滅会社の債務を承継する存続会社において、債権者を害する可能性が生じますので、一定の債権者保護手続きを取る必要があります。

具体的に言うと、吸収合併においては消滅会社と存続会社、新設合併においては両当事会社において、債権者保護手続きが必要です。

債権者保護手続きは、会社の公告をする方法に従って公告文(異議がある場合は1か月以内に申し出る必要がある旨)を掲載すること、及び会社の債権者に対する個別の通知をするものになります。

異議を申し出た債権者に対しては、弁済をしたり担保を提供したりする等の対応が必要となります。

また、会社の公告をする方法が官報以外の場合は、官報とのダブル公告をすることによって、各債権者への個別の通知を省略することができます。

なお、債権者保護公告において、株式会社の場合は、前提として、決算公告をしておく必要がありますので、スケジュールを組む際には、十分気を付ける必要があります。(特例有限会社は決算公告は不要です。)

 

④ 株主保護手続

合併に反対する当事会社の株主・新株予約権者は、原則として、株式又は新株予約権の買取請求権の行使が認められます。

この買取請求権は、吸収合併の場合は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に、新設合併の場合は、後述する通知又は公告から20日以内に、行使する必要があります。

当事会社は、株主又は新株予約権者に対して、吸収合併の場合は効力発生日の20日前までに、新設合併の場合は株主総会決議日から2週間以内に、通知又は公告をしておく必要があります。

実務上は、各別の通知に代えて、公告をすることが多いです。この公告は、上記③の債権者保護の公告と兼ねて掲載することができます。(上場会社の場合は、公告が必須です)

 

⑤ 合併に関する情報の事前開示・事後開示

当事会社は、合併の効力発生の一定期間前から事前開示書類を備え置き、効力発生日から6か月間は事後開示書類を備え置く必要があります。

事前開示書類については、債権者保護の通知又は公告日から開示する例が多いものと思われます。

なお、上場会社については、金商法による臨時報告書の提出や上場取引所の規則による適時開示が必要になる場合があります。

 

⑥ 株券、新株予約権証券の提出

合併消滅会社が、株券又は新株予約権証券を発行している場合、その提出を求めるため、効力発生日の1か月前までに、公告かつ個別の通知を行う必要があります。

ただし、株券等を全く発行していない場合には、公告・通知の手続きは不要となります。実務的には、株券不所持申出を行って、手続きを省略することも考えられます。

株券提出手続きによって提出すべき株券は、その提出の有無にかかわらず、効力発生日に無効となります。

効力発生日までに株券が提出されない場合、当事会社は、対価の交付を拒むことができます。

 

⑦ 登記申請

合併は、合併契約に定めた効力発生日に、その効力が生じます。ただし、債権者保護手続きが未了の場合は、完了するまで効力が生じません。

吸収合併においては、存続会社の代表者が合併の登記(消滅会社の解散登記を含む)を申請し、新設合併においては、設立会社の代表者が合併の登記(消滅会社の解散登記を含む)を申請します。

なお、登記は、効力発生日から2週間以内に申請する必要があります。

添付書類

合併の登記の添付書類は以下のとおりです。(消滅会社では添付書類はありません)

・(吸収又は新設)合併契約書

・存続会社及び消滅会社の株主総会議事録(簡易合併、略式合併の場合は不要)

・株主リスト

・(新設合併の場合は)定款、設立時代表取締役の選定に関する書面、役員の就任承諾書及び本人確認情報等

・(該当する場合は)簡易合併の要件を満たすことを証する書面(代表者の作成した証明書等)

・(該当する場合は)略式合併の要件を満たすことを証する書面(株主名簿等)

・債権者保護手続のための公告及び催告をしたことを証する書面(催告証明は、代表者作成の証明書。官報はPDFでの添付可能)

・(該当する場合は)異議を述べた債権者に対して弁済、担保提供、信託をしたこと、又は債権者を害するおそれがないことを証する書面

・(資本金の変更がある場合は)資本金の額の計上証明書

・消滅会社の登記事項証明書(登記所管轄内の場合は省略可)

・(消滅会社が株券発行会社の場合)株券提供公告をしたことを証する書面(株券が全く発行されていない場合は、それを証する書面(株主名簿))

・(消滅会社が新株予約権発行会社の場合)新株予約権証券提供公告をしたことを証する書面(新株予約権証券が発行されていない場合は、それを証する書面(新株予約権原簿))

・(必要に応じて)効力発生要件となる許認可の謄本

・(必要な場合は)登録免許税法施行規則12条5項の規定に関する証明書

 

合併のスケジュール例(完全子会社の吸収合併)

次に、吸収合併のスケジューリングの例について、ご紹介します。以下の例は、親会社(非公開の小規模な株式会社)が完全子会社(非公開の小規模な株式会社)を吸収する場合となっています。

この例では、簡易合併及び略式合併とすることが可能ではありますが、株主が少数であり、かえって手続きが煩雑となることを避けるため、通常どおり株主総会の承認を得る形にしています。

下記の例では、効力発生日を9/1とします。

    存続会社 消滅会社  
6/19   決算公告の申込み 決算公告の申込み
6/30 ⑦の2週間前までに 事前開示書類等備置開始 事前開示書類等備置開始
7/9   決算公告 決算公告 
7/9   債権者に対する公告の申込み 債権者に対する公告の申込み
7/13   合併契約承認の取締役の決定
(又は取締役会決議)
合併契約承認の取締役の決定
(又は取締役会決議)
7/14   合併契約の締結 合併契約の締結
7/15   合併契約承認株主総会 合併契約承認株主総会
7/15 ⑪の1か月以上前に       債権者に対する公告・催告 債権者に対する公告・催告
8/11 ⑫の20日前までに             株主に対する通知又は公告 株主に対する通知又は公告
8/11 ⑫の20日前の日から⑪までに 反対株主の株式買取請求 反対株主の株式買取請求
8/31   合併期日の前日 合併期日の前日
9/1   合併期日(効力発生日) 合併期日(効力発生日)
9/1 ⑫後、遅滞なく 事後開示書類等備置開始  
9/1 ⑫後、2週間以内 合併変更登記、消滅会社の解散登記申請  
3/1 ⑫後6か月経過する日まで 事前・事後開示書類等備置終了  
3/1 ⑫後、6ヶ月以内 合併無効の訴えの提訴期間終了  

 

以上、会社の合併の法的手続・登記手続について、解説しました。合併の登記手続きは、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。

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