M&Aの基本合意書における法的拘束力の範囲について解説します。

Q.【法的拘束力の範囲】基本合意に法的拘束力が及ぶのはどの部分ですか。実務的にはどのようなドラフトをすることが多いのでしょうか。

 

【ポイント】

基本合意では、株の売買に関する事項、デューデリジェンスに関する事項、対象会社の役員の処遇、退職金の支給、株式譲渡後の支援、売手オーナーの個人保証の解除等が規定されるがこれらには法的拘束力を及ぼさないこととするのが実務の取扱いです。

法的拘束力を及ぼすのは、独占交渉権の付与と秘密保持に加え、解除条項や合意管轄等の一般条項のみです。

 

A.基本合意の締結は、独占交渉権の付与と秘密保持の約束の2点が非常に大きな意味をもつものですが、それだけにとどまらず、最終契約に向けて売手と買手の合意事項を書面に落とし込むことによって、成約に向けて意識を高めていく狙いもあります。

 

まず、法的拘束力についてであるが、契約においては、特約がなければ、法的拘束力というのは当然に生じるものであり、裁判手続きによって、その実体法上の権利の存在が認められれば、その内容を強制的に実現し得るものです。

しかし、特約によって、法的拘束力が排除された条項は、その権利の実現について裁判所に訴え強制執行をすることができず、債務は自然債務となり任意の給付に期待するほかなくなるものです。

 

次に、基本合意書に記載される事項を具体的に列挙していくと、

①株を売買すること及びその代金、②最終契約を締結すること、③買手によるDDの実施及び売手による調査への協力、④決済までの間対象会社を善管注意をもって経営すること、

⑤最終契約において表明保証をすること、⑥役員の処遇及び退職金、⑦売手による株式譲渡後の対象会社への支援、⑧従業員の雇用等の維持、⑨売手の個人保証の解除、

⑩不動産や車両の売買、⑪役員借入や役員貸付等の債務の弁済、⑫解除条項、⑬基本合意の有効期間、⑭買主に対する独占交渉権の付与、⑮秘密保持、⑯法的拘束力の範囲、⑰費用、

⑱法的拘束力の範囲、⑲合意管轄

となります。

一見どの条項も非常に重要で全てに法的拘束力を付与すべきにも思えてきますが、実務上は、①~⑪には法的拘束力を及ぼさず、⑫~⑲についてのみ法的拘束力を及ぼすのが通例です。

~条文例~

(法的拘束力)

第*条 買主及び売主は、本合意書のうち第*条乃至第*条についてのみ法的拘束力を有し、その他の条項については法的拘束力を有しないものであることを確認する。

 

その理由は、基本合意書を締結するタイミングにあります。

 

中小企業M&Aにおいては、売手と買手のマッチングが成功しディールが進み始めると、両者の社長同士が会談するトップ面談が実施されるのが通常です。トップ面談で社長同士が意気投合し、M&Aの成功に向けてベクトルを一致させると、次に基本合意を締結することとなります。

その後、デューデリジェンスを実施して対象会社の経営状態を把握し、会計、法務等の問題点を洗い出すと、それを反映した最終契約書を締結し、決済を完了させます。

 

この一連の流れから分かるように、基本合意を締結した後にデューデリジェンスを実施することとなります。

つまり、デューデリジェンスによって判明した法務、会計上の問題点次第では、株の売買代金や退職慰労金の額が変更となったり、役員借入金等の残額が違っていたり、場合によっては、ディールそのものの取りやめにすら発展する可能性もあります。

 

したがって、デューデリジェンス前に締結する基本合意において、株式譲渡契約の内容そのものを構成する①~⑪の事項については、法的拘束力を付与せず、デューデリジェンスの結果に応じて柔軟に変化させられるようにしておくべきです。

これらの事項については、デューデリジェンスの結果を十分に反映した最終契約書において、完全な契約とすれば良いでしょう。

 

一方で、⑬、⑭の独占交渉権の付与については、基本合意後にデューデリジェンス、最終契約と進んでいく中で、売手が別の買手と成約してしまっては、買手としては安心して多額の費用を要するデューデリジェンスを実施できないし、最終契約に向けて社内調整や手続き等を進められないので、基本合意の中で法的拘束力を持たせるべき事項となります。

なお、独占交渉権は⑬の有効期間内においてのみ生じるものとし、その期間は3カ月が最も多い例となる。案件によっは、早期決着を狙って2カ月に短縮したり、長引きそうな場合は、4カ月などとすることもあります。

 

⑬の有効期間は、期間設定がされるほか、最終契約が締結されないことが確実となった場合は終了する内容とするのが通常です。

また、売手買手共に、法的拘束力を及ぼした条項に反する場合を除き、最終契約を締結しなかったことによって損害賠償の責任を負わない旨を確認する内容ともなっています。しかし、契約締結上の過失を問われる可能性があることに留意すべきです。

 

⑮の秘密保持については、売手としては、これからデューデリジェンスを受けて買手に対して企業秘密を開示していくこととなるし、また、M&Aを検討しているということが取引先に分かると信用を失ったり、取り付け騒ぎがおきてしまったりするリスクがあるため、基本合意の中で必ず法的拘束力を付与する事項となります。

 

イレギュラーなケースとしては、買手が上場企業であり、基本合意の締結をもって適時開示を実施する場合や基本合意の前にデューデリジェンスが終わっていたり、買手が特定の1社に限定される場合などがあります。

そのような場合においては、②の最終契約を締結する旨の合意や、④の善管注意義務等に法的拘束力を及ぼす場合があります。例えば、基本合意段階で適時開示がなされたにもかかわらず、案件がブレイクした場合は売手に甚大な損害が生じてしまうため②や④に法的拘束力を及ぼすといった配慮が必要となるためです。

 

以上が、基本合意における法的拘束力を及ぼす範囲とその考え方になります。

M&Aの基本合意においては、法的拘束力の及ぶ範囲を上手く使い分けることによって、その後のディールの進行を促進し、成功に導くことが重要です。

 

M&Aの基本合意書の作成や最終契約書の作成は、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。

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