今回は、障害を持つお子様がいる場合の相続対策について、解説します。
遺言や信託を上手く組み合わせることで、障害のあるお子様を相続リスクからお守りします。
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想定事例(ガンの夫と障害を持つ娘さんがいる場合の相続対策)
Q:Aと申します。先日、夫Bが末期ガンであるとの診断を受けました。私たち夫婦には、知的障害を持つ娘Cがおります。
もし、夫Bが亡くなってしまった場合、相続手続きはどうなるのでしょうか?
なお、夫Bの財産は、自宅の土地建物(2000万円相当)と預貯金(1000万円)のみです。
(相談内容は、想定になります。)
A:旦那様(B)が亡くなってしまった場合、奥様(A)が1/2、娘さん(C)が1/2の割合で、遺産を相続することになります。
通常、遺産分割協議を行い、相続財産を誰が取得するかを決めるのですが、娘さんが知的障害をお持ちであることから、娘さんに成年後見人を選任しなければ、遺産分割協議はできません。
成年後見人が付いた場合は、娘さんの法定相続分にあたる遺産は必ず確保しようとしますから、最悪の場合、ご自宅が共有になるか売却をしなければ話がまとまらないことが想定されます。
これを回避するためには、遺言を作成し、夫(B)の全財産を妻(A)が相続する、とすることです。
なお、夫Bさんと妻Aさんのご両名が亡くなった後の、残された娘Cさんの生活確保の事を考えると、奥様(A)の財産を親族に信託し、娘さんを受益者として、受託者である親族が娘さんの生活費を支払う方法が考えられます。
遺産分割協議と成年後見人
成年後見制度というのは、判断能力がなくなっている本人のために、後見人が代理人となり、様々な契約の締結などを行うものです。
今回のケースで、もし、遺言を書かずに夫(B)が亡くなってしまった場合は、遺産分割協議を妻(A)と知的障害のある娘(C)の間で行うこととなるのですが、この遺産分割協議をするために、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てることもできます。
けれども、選任された成年後見人は、あくまで「被後見人ご本人のため」のみを考えて、最低でも法定相続分に相当する遺産を取得できなければ、遺産分割協議には応じてくれないでしょう。
もしそうなると、今回のケースでは、不動産を娘さん(C)との共有にするか、売却して換金をしなければ、平等な遺産分割にはなりません。
妻(A)と娘(C)の住居を確保し、母亡き後の娘の生活の事まで考えると、どうしても不都合が生じてしまいます。
遺言による相続対策
そこで、有効となるのが、夫(B)が遺言を書いておくという対策になります。
遺言の中で、全財産を妻(A)に相続させる、としておけば、知的障害を持つ娘(C)に遺産を持たせることなく、相続を完了することができますし、自宅の売却も必要ではありません。
(※今回のケースでは、遺産総額が基礎控除の範囲に収まっており、相続税の心配もありません。)
遺言は自筆証書でもかまいませんが、自筆証書の場合、法的に無効なものを作成してしまうリスクや紛失リスクがありますので、公正証書遺言にしておくことを強くお勧めします。
親亡き後の問題を解決する信託
今回のケースで、夫が遺言を作成し、相続時に妻(A)が全財産を相続できたとしても、妻が死亡した後の知的障害の娘さん(C)の生活確保の問題が残ります。
このような場合には、信託を上手く活用することが有効な対策となります。
妻を委託者兼受益者、妻(A)の親族で信頼できる者を受託者、妻の死亡後の二次受益者を娘さん(C)とします。
信託契約の中で、妻(A)死亡後に、受益者である娘さん(C)の日々の生活に必要な費用を受託者である親族が支払うことによって、妻死亡後も娘さんが安心して生活することができます。
遺産分割協議や遺言書の作成、信託契約や信託登記については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。