今回は、令和2年4月1日から新しく始まる配偶者居住権の制度とそのメリットについて、分かりやすく解説します。
(※配偶者短期居住権については、別の回で解説します。)
このページの目次
預貯金の少ない相続での問題点
~想定事例~
父Aさん(80歳)が亡くなりました。相続人は、母Bさん(78歳)と長男Cさん(53歳)の二人です。
Aさんの遺産は、2000万円相当の自宅の土地建物と預貯金1000万円のみであり、合計3000万円です。
これまでの相続手続きでは、法定の相続分である1/2Bさん、1/2Cさんの割合で遺産を分けようとすると、自宅を売却して現金化しなければ、平等に遺産を分配することができませんでした。
また、多くのケースでは、配偶者である母Bさんは、自宅に住み続けることを希望するでしょうから、Bさんが自宅を相続し、預貯金をCさんが相続する遺産分割協議を行うと、母Bさんは老後の生活費に充てる預貯金を相続できずに生活に困ってしまう事態となるのです。
この母Bさんが自宅を相続する場合では、母Bさんは法定相続分である1/2以上の遺産を取得していることになりますから、長男Cがそれでもいいと納得してくれているか、Bさんが長男Cに対して差額の500万円を支払う必要があるのです。
このように、遺産の中に預貯金の少ない相続においては、残された配偶者の老後の生活資金の確保が困難になるという問題が生じていました。
配偶者居住権とそのメリット
そこで新たに創設されたのが、配偶者居住権という制度になります。
配偶者居住権というのは、分かりやすく言うと、配偶者の死亡後においても、賃料などの負担なしで、住んでいた自宅に住み続けたり、承諾を得て自宅を貸し付けたりすることができる権利になります。
配偶者居住権の最大のポイントは、配偶者が自宅に住み続けられる権利と自宅の所有権を分離できるところにあります。
上記の事例で考えてみると、母Bさんが配偶者居住権を取得し、長男Cさんが自宅の所有権を取得することにより、2000万円の自宅を1000万円相当の配偶者居住権と、1000万円の自宅所有権に分離して相続することができます。
(※配偶者居住権の価値の計算は、実際はもっと複雑ですが、ここでは簡略化して自宅所有権の50%としています。)
すると、残りの預貯金1000万円を、母Bさんと長男Cさんで500万円ずつ相続する事が可能となりますので、法定相続分どおりの相続が実現します。
配偶者居住権を上手く使った結果、母Bさんと長男Cさんは1500万円ずつの平等な相続をすることができ、かつ、母Cさんは自宅に住み続けることができるのです。
さらに、母Bさんは預貯金500万円も相続できましたから、老後の生活資金の確保もできたという訳です。
配偶者居住権の成立の要件
上記のようなメリットを持つ配偶者居住権ですが、成立するためには以下の要件を満たす必要があります。
・故人の配偶者が、故人の死亡時に故人の財産である建物に住んでいたこと。
・遺産分割協議により故人の配偶者が配偶者居住権を取得するものとされた、又は、遺言により配偶者居住権を遺贈されたこと。
上記以外には、一定の要件を満たした場合に、家庭裁判所の審判により配偶者居住権を取得することもできます。
また、死因贈与といって、贈与する者の死亡を条件とした生前の贈与契約によって、配偶者居住権を取得させることもできます。
配偶者居住権の性質
存続期間
配偶者居住権は、原則として、配偶者が死亡するまでの間、つまり終身で存続するものになります。
ただし、遺産分割協議や遺言で別段の定めをした場合や、家庭裁判所の審判で別段の定めをした場合は、終身ではないこともあり得ます。
譲渡の可否
配偶者居住権は、譲渡することができません。あくまで、配偶者自身の居住する権利を確保するためのものだからです。
配偶者による使用、収益、修繕
配偶者居住権により引き続き自宅に住み続ける場合、自宅の通常の維持に必要な費用や修繕の費用はその配偶者が負担することが原則となります。
例えば、雨漏りの修理の費用や建物の固定資産税は、配偶者居住権を持つ配偶者が負担することとなる訳です。
次に、配偶者が居住する建物を、第三者に貸し付けて使用させたり、増改築したりする場合には、建物所有者の承諾が必要となります。
これに違反した場合、催告後一定期間の経過により、建物所有者は配偶者居住権の消滅を請求できますから要注意です。
配偶者居住権と登記申請手続き
配偶者居住権は、登記することによって、建物所有権を譲り受けた第三者に対してもその効力を主張することが可能となります。
もし、配偶者居住権を取得したにもかかわらず、登記をせずに放置してしまうと、最悪のケースでは配偶者居住権を失うこともありますから、しっかりと登記申請をすることが必要です。
配偶者居住権の設定の登記は、権利者である配偶者と、義務者である居住建物を相続又は遺贈により取得した者(=居住建物の所有者)との共同申請で行うこととなります。
つまり、居住建物の所有者が協力してくれなければ、配偶者居住権の登記ができないのですが、民法上、居住建物の所有者はこの登記をする義務がありますから安心です。
配偶者居住権を活用した遺言の作成
~想定事例~
父Aさん(80歳)が亡くなりました。相続人は、母Bさん(78歳)と長男Cさん(53歳)の二人です。
Aさんの遺産は、2000万円相当の自宅の土地建物と預貯金1000万円のみであり、合計3000万円です。
父Aさんは、公正証書遺言を残しており、母Bさんに配偶者居住権を遺贈すると記載されています。
結婚して20年以上経つ夫婦という条件はあるのですが、故人が遺言で配偶者居住権を配偶者に遺贈した場合、その配偶者居住権を遺産の計算上から除外する持戻しの免除の意思表示が推定されます。
どういうことかと言いますと、遺贈された1000万円相当の配偶者居住権を相続の配分から除外し、残った建物所有権1000万円と預貯金1000万円を、相続人である母Bさんと長男Cさんが2分の1ずつ分けることになるということです。
建物所有権をCさんが預貯金をBさんが相続するということにすれば、母Bさんは、自宅に住み続けることができる上に、預貯金も1000万円丸ごと相続できて老後も安心となります。
もちろん、長男Cさんは1000万円相当の自宅所有権を相続していますから、法定相続分を満たした遺産を相続できています。
これも、配偶者居住権を使う大きなメリットの一つになります。
配偶者居住権を利用した節税
これまでは、故人の配偶者が自宅に住み続ける場合、子供と配偶者が共有する形で自宅を相続するケースが多々ありました。
そうすると、配偶者が相続した自宅の共有持分を子供が相続する際に相続税がかかるというデメリットがありました。
けれども共有にする代わりに配偶者居住権を活用すれば、そのような税金を回避することが可能になります。
なぜなら、配偶者居住権は、配偶者の死亡と同時に消滅し相続の対象とならないため、子供は無税で居住建物の完全な所有権を取得できるためです。
(※節税については、提携の税理士と対応することとなります。)
配偶者居住権を活用した遺産分割協議書作成や遺言書作成、配偶者居住権設定の登記申請については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。