今回は、令和3年3月1日現在、法律案が審議の対象となっている相続登記の義務化や遺産分割の期限等の法改正について解説します。
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相続登記に関する法制度と改正に至る理由
現在の法制度では
相続による土地建物の名義変更(不動産の所有権移転登記)は、現在の法制度上、申請を行うか否かは、所有者の任意となっています。
登記をするということは、第三者に対する対抗要件を得るためであり、自らの権利を完全に保全しようとすると、自ずと登記が必要となりますが、それは、あくまで所有者の判断に任されているという訳です。
現在(令和3年3月1日)、相続が生じた不動産について、名義変更を行わずに放置したとしても罰則がありません。
特に、法定相続分どおりの相続については、対抗要件上も問題が無いという理由で登記申請を行わないという判断もあり得たところになります。
また、遺産分けの話し合いである、遺産分割協議についても期限は設けられていませんでした。
東日本大震災の復興や空き家問題の影響
東日本大震災からの復興のため、様々な公共事業が行われたことは記憶に新しいかと思います。
公共事業を進める上では、事業用地の取得が必須となる訳ですが、その際に、相続登記がなされれずに長期間放置されている土地の買収が難しいことが原因で、事業が大幅に遅れるという事態が生じました。
弊所の司法書士は元国土交通省四国地方整備局の用地課職員ですから、明治時代などの古い名義の土地の用地買収が容易でないことは経験から熟知しています。
(東日本大震災の復興以外の、通常の道路事業や河川事業でも、相続登記がなされず放置されている土地等が、事業進捗のあい路となっているのです。)
それをきっかけとして、所有者不明(長期相続登記放置)土地問題の解消が叫ばれるようになりました。所有者不明土地の面積は、日本全体で北海道の面積に匹敵する程あるとも言われています。
また、空き家問題も社会的にクローズアップされ、対策の必要性が認識されたことにより、政府も法改正に動き始めました。
相続による登記申請の義務化と罰則
法改正の進行状況
所有者不明土地問題の根本的な解決策として、相続による所有権移転登記等の申請を法律上の義務とし、違反者には罰則を適用することや、遺産分割協議に一定の期限を設けるといった内容の法改正案の作成が、現在進められています。
(令和3年2月10日時点の情報ですが、法務省において所要の法律案が作成され,現在開会中の第204 回通常国会に提出するべく準備が進められている、ということです。)
ですので、以下に紹介している法改正の内容は、あくまで「案」となりますので、ご注意ください。(国会審議の中で変更される可能性があります。)
相続登記義務化の内容
①名義人の死亡により相続が開始し、その相続により不動産の所有権を取得した者は、
相続の開始があったことを知り、その不動産の所有権を取得したこと知った日から、
3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
②上記の規定により申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのに、その申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。
③法定相続人が遺贈(遺言による贈与)により、所有権を取得した場合も、上記と同様(の義務と過料が生じる)とする。
との規定が新設される予定です。
誤解をおそれず簡単に言えば、所有者(故人)の死亡から3年以内に、相続人は不動産の名義変更をしておくことが義務となり、怠ると罰金(のようなもの)を受ける可能性があるということです。
また、いったん法定相続分どおりの所有権移転登記をした後に、遺産分割協議が成立した場合において、
法定相続分を超える所有権を取得した者は、その遺産分割協議の日から3年以内に、所有権移転登記の申請しなければならない、
との規定も新設される予定です。
過料とは?実際の運用は?
過料というのは、行政罰ですので、刑事罰とは異なり前科にはならない性質のものになります。
この過料に処する、という規定がどこまで厳格に適用されるのかは、法務局の運用にかかっているところが大きいです。
法改正後の、実務の動きに注目したいと思います。
相続人である旨の申出の制度
上記の相続による所有権移転登記の義務を負う者について、以下の申し出を登記官に対して行うことにより、義務を履行したものとみなされます。(ただし、申し出の前に遺産分割協議がされている場合を除きます。)
・所有権の登記名義人(被相続人)について相続が開始した旨
・自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨
この申し出を行うと、申出があったこと及び申出人の氏名住所などが、登記官の職権により登記されます。
(私見ですが、これにより相続人と連絡の取れない不明土地を無くしてく趣旨と思います。)
また、申し出の後に遺産分割協議をした場合は、その分割の日から3年以内に所有権移転登記をしなければなりませんので、注意が必要です。
期限過ぎの遺産分割協議に関する規定の新設
遺産分割については、次のような規定が新設される予定です。
・相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、特別受益及び寄与分に関する規定は適用しない。
これは、誤解を恐れず簡単に言うと、被相続人からの生前贈与や被相続人の介護等に努めたこと等を、相続の取り分で考慮するのは、死後10年まで、ということです。
10年以上経過した相続については、原則として、法定相続分どおりの遺産の分配となる判断を裁判所が行うことになる、とも言えます。
特別受益や寄与分の加味に期限を設けることによって、なるべく10年以内に遺産分割協議をして欲しいという趣旨の法改正だと思われます。
以上、相続登記の義務化や期限過ぎの遺産分割に関する法改正の予定について、解説しました。
今回の記事は、あくまで法改正「案」に基づいた話になりますので、今後変更となる可能性はあります。
確定した情報が出ましたら、また、続報を投稿したいと思いますので、よろしくお願いいたします。
遺産分割協議書の作成や相続による所有権移転登記の申請は、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。