今回は、株式会社における共有株式の権利行使者の指定と特定の株式を対象とした相続分の譲渡が問題となった役員変更登記について、解説します。
なお、この記事の事例は、複数の事案を組み合わせており、実際の案件の内容とは異なります。
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想定事例~株式の相続と相続分譲渡を前提にした役員変更登記の可否~
対象会社は、役員を代表取締役甲とし、議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数を有する株主の出席を定足数とする株式会社である。
対象会社の株主名簿には、株主として故A(900株)、乙(300株)及び丙(300株)が記載されている。
故Aの相続人は、現代表取締役の長男甲のほか、妻乙、及び長女丙の3名である。
故Aの相続について協議を行った結果、乙は、対象会社の株式900株に関する相続分2分の1を、甲に譲渡する旨の念書(弁護士Xにて作成)に署名押印した。
その後、対象会社の役員全員を重任させるために定時株主総会を行うべく、招集通知を行ったが、乙及び丙は出席せず、議決権行使書面も提出しなかった。
対象会社の役員全員を重任させる旨の株主総会決議を成立させることはできるか?
司法書士の回答~相続分譲渡の有効性と権利行使者の指定~
当該念書における特定の株式のみを対象とした相続分の譲渡が有効かどうか、検討する必要があります。
有効だとすれば、代表取締役の甲が、遺産共有となっている900株の持分4分の3(過半数以上)を持つこととなりますから、共有物の管理行為として、この共有株の権利行使者を指定することができます。
議決権行使者を自らである甲と指定し、自ら株主総会に出席すれば、定足数を満たし、役員の重任を可決することができます。
論点1 特定の財産を対象とした相続分譲渡の有効性
相続分とは、相続分という遺産全体に対する包括的な割合を言います。
そして、相続分の譲渡が行われると、その相続人は遺産分割協議から離脱することからも、上記の定義が導かれると言ってもいいでしょう。
では、今回の想定事例のように、特定の財産のみを対象とした相続分の譲渡は、有効なのでしょうか。
結論としては、明白に無効とは言えない、ということになると考えます。
相続分の譲渡に関しては、様々な学説があり、共有持分説に立脚すると、特定の財産を対象とした相続分譲渡も有効とする結論を導くことができると考えられます。
本件に関しては、役員変更登記の議事録に、開催に先立ち当該念書に基づき議決権行使者の指定があったことを記載し、かつ、当該念書を合綴し登記申請に及んだところ、登記は完了されました。
登記官には、形式審査権しかありませんが、添付書類に表れている記載内容に限って実体判断をすることはできます。
そして、添付書類に記載されている実体に関する事項が、明白に無効ではない限り、登記は却下されません。
今回の、特定の株式のみを対象とした相続分譲渡は、明白に無効ではなかったということになります。
最三小判平成9・2・25が言うように、契約書(念書)の作成者の「通常の意思」と「社会通念」を考慮して契約条項の解釈を行うべきだと、判断されたものと思います。
論点2 議決権行使者の指定は管理行為か、処分行為か
会社の株式が共有となっている場合、会社法106条に基づき、当該株の権利行使者を定めて会社に通知しなければ、議決権を行使することができません。
本件においては、上記論点1の相続分の譲渡が一応有効であるとの前提に立てば、甲が共有株の4分の3を有している状態となりました。
では、甲は、権利行使者の指定をすることができるのでしょうか。
権利行使者の指定は、原則として、共有物の管理行為であると考えられています。(民法252条)
そうすると、管理行為は、共有者の持分の価格の過半数で決しますから、本件株式の4分の3を持っている甲は、権利行使者を指定できると言えそうです。
これは、平成9・1・28の最高裁判例も言っていることです。
しかしながら、中小企業の支配株の共同相続のケースでは、権利行使者の決定が、当該企業の実質的な承継者を決定を意味して、単なる管理行為と見ることはできず、処分行為であるとする有力説もあります。
もし、権利行使者の指定が処分行為だとすると、共有者全員の同意がなければ行うことはできないものとなります。(民法251)
本件では、甲は、共有持分の過半数しか持っていませんでしたが、その株数での権利行使者の届出があった旨を定時株主総会議事録に記載の上、役員重任登記を申請した結果、登記は完了しました。
法務局は、上記平成9・1・28の判例の立場に従ったものと考えられます。
以上、特定の株式を対象とした相続分譲渡の有効性と、共有株式の権利行使者の指定が問題となった役員重任登記について解説しました。
役員変更登記や、相続分譲渡等の法律文書作成については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。