相続放棄によって贈与を詐害行為とし価額賠償請求されるリスクについて解説

今回は、相続放棄をしたことにより、過去の贈与を詐害行為として価額賠償請求されるリスクについて、想定事例を用いて解説します。

 

~想定事例~

A氏は、自らがオーナー社長である株式会社甲の事業資金1500万円を金融機関Xから借り入れた際に、自宅兼事務所のマンション(評価額2000万円)に2番根抵当権(極度額700万円)を設定し、かつ、自ら連帯保証人となりました。

その3年後、株式会社甲の事業が不振となり返済が困難となった状況下で、Aは、自宅兼事務所のマンションの持分2分の1を甲の取締役であり妻であるBに贈与して、所有権一部移転登記をしました。その5年後、1番抵当権は、弁済により抹消されました。

 

その後、A氏は亡くなりました。株式会社甲は、Xへの残債務1000万円の弁済の支払いを停止しました。そして、Bを含めた法定相続人全員が相続放棄をしました。

Bは、自宅兼事務所のマンションを売却し引っ越そうと思い、金融機関Xに根抵当権抹消のために、極度額である700万円を売却代金から支払う旨を打診しました。

その結果、金融機関Xは、Bに対して、AからBへの贈与について、詐害行為取消による価額賠償として1000万円を請求する訴訟を提起しました。価額賠償の理由は、1番抵当権の抹消による所有権一部移転登記の抹消の不能です。

※上記事例は、複数の事例を組み合わせた上で変更を加えた、架空のものです。

 

 

過去の贈与が詐害行為として取り消されるリスク

上記想定事例では、A氏の事業が不振となった際に、妻兼取締役であるBに自宅兼事務所のマンションを贈与しています。

これが、債権者を害する贈与として、詐害行為取消しの対象とされました。金融機関としては、2番根抵当権の極度額の700万円を受け取るよりも、詐害行為取消しによる価額賠償を請求した方が回収額が多くなるからです。

以下、詐害行為取消しの要件と、価額賠償ができる場合について、解説します。

 

詐害行為取消しの要件事実

1.原告が被保全債権者の地位を有すること

2.債務者が、上記債権の発生後に、債務者の財産権を目的とする行為をしたこと

3.上記行為が原告を害すること

4.上記行為について債務者が悪意であること

5.上記行為に基づいて、受益者(被告)に対して、目的物の引渡しや所有権移転登記がされたこと

7.原告が上記2~4を知ってから2年以内に提訴したこと

8.原告が上記2から10年以内に提訴したこと

9.(価額賠償の場合は)目的の評価額

※参考文献「要件事実マニュアル」岡口基一著

 

価額賠償が認められる場合

詐害行為取消しによる財産の回復は、現物の返還によることが原則にはなりますが、困難な場合は価額賠償によることができます。

ただし、その困難性の不存在が抗弁に回る形となります。

 

本想定事例では

本想定事例では、株式会社甲の経営が不振となったときの贈与であることから、債権者であるXを害することや債務者であるAの悪意が認定されるものと考えられます。

現物返還の困難性について、1番抵当の抹消については、必ずしも、贈与による所有権一部移転登記の抹消を妨げるものではないことから、反論(抗弁)の余地があるように思われます。

生前贈与や相続放棄をきっかけとして、訴訟に発展したケースですので、贈与や放棄を行う際は、慎重な法的検討を行う必要があることを物語っています。

 

債務者が相続放棄した場合の抵当権の実行

本想定事例では、詐害行為取消しは価額賠償となっていましたが、原則どおり、贈与による所有権移転登記を取消しにより抹消する場合を想定して、以下解説します。

 

抵当権の被担保債権の債務者に相続が発生し、相続人全員が相続放棄をした場合、債権者(抵当権者)どのようにして、抵当権を実行するか問題となります。

この場合、抵当権者は相続財産清算人の選任申立てをした上で、選任された相続財産清算人に対して、抵当権実行の手続を取ることとなります。

 

通常、相続放棄がなされるのは、被相続人に資産がなく借金の方が多い状態や、資産はあるけれども借金の方が多い状態が考えられます。

詐害行為として贈与を取り消すことにより、被相続人の資産が増加(復帰)しますので、抵当権者としては、相続財産清算人を選任してでも、抵当権を実行する実益があります。

 

以上、相続放棄をしたことにより、過去の贈与を詐害行為として価額賠償請求されるリスクについて、解説しました。

生前贈与や相続放棄は、上記のようなリスクがあるため、慎重に判断する必要があります。

相続放棄の手続きや贈与による所有権移転登記は、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。

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