今回は、相続人の中に未成年者がいる場合の特別代理人の選任と遺産分割協議の問題について、解説します。
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想定事例~相続人の中に未成年者がいる場合の遺産分割協議~
Q:Aと申します。先日、夫が事故で急死しました。私には、中学生の長男と小学生の長女の2人の子供がいます。
夫の遺産は、自宅マンションと預貯金が1000万円だけになります。遺産分けの話し合いと言っても、子供は相続のことなどよく分かっていないのですが、どうすればいいのでしょうか?
なお、遺産はとりあえず、全て私の名義にできればと思っております。
(※相談内容は、想定です。)
A:未成年者の親権者は法定代理人といって包括的な代理権があるのですが、未成年者の法定代理人として遺産分割協議を行うと利益相反行為になってしまいます。
この場合は、家庭裁判所に申立てをして、未成年者の特別代理人を選任してもらい、あなたと特別代理人との間で遺産分割協議を行う必要があります。
また、家庭裁判所は、子供の権利の保護を考慮しますので、原則として子供に法定相続分に相当する財産を取得させる必要があるのですが、もし、全遺産をあなたの名義にしたい場合、子供に対しては何らかの手当てをすることが必要となるでしょう。
利益相反行為とは~遺産分割協議の場合~
利益相反行為とは、ある行為が、一方に対して利益となり、一方に対して不利となる行為のことをいいます。
これだけだと何のことだか分かりませんので、今回の想定事例に即して解説します。
Aさんは、未成年である長男と長女の母ですので、親権者=法定代理人ですから、子供たちの法律行為を代理することができます。
一方、亡くなったAさんの夫の相続に関して、相続人は、Aさんと長男と長女の三人です。
遺産分割協議は、相続人全員でする必要があるところ、未成年者については、法定代理人であるAさんが意思決定をすることになります。
つまり、このケースでは、Aさん一人の意思決定だけで、各相続人の取り分を自由に決められてしまうことになります。
Aさんは、本来あるべき子供の取り分を少なくして、自分の取り分を多くすることもできてしまう訳です。
これを利益相反と言い、民法ではこれを無権代理であり無効だとしているのです。
特別代理人の選任と法定相続分の問題
そこで、法律上、相続人の中に未成年者がいる場合の遺産分割協議においては、未成年者に特別代理人を付けることとされています。
特別代理人は、家庭裁判所に申し立てることによって選任され、通常、相続人ではない親族や弁護士などが選任されることとなります。
家庭裁判所への選任申立書には、遺産分割協議書の案を添付することとされており、選任された特別代理人は、原則として、この遺産分割協議書案の内容に拘束されると考えられています。(全く裁量の余地がない訳ではありません)
家庭裁判所としては、添付されている遺産分割協議案が、子供の権利をないがしろにしていないかどうかを審査していると考えられます。
子供の利益を一方的に奪う遺産分割協議書案では、特別代理人の選任申立てが受理されないリスクがあるという訳です。
ですので、遺産分割協議の案では、子供の法定相続分を確保した内容にすれば、特に問題は起こらないでしょう。
一方、親が法定相続分より多くの遺産を取得したいと考える場合、遺産を多く取得する理由は子供の養育費や学費等に充てるためである旨の説明をする方法や、代償金を子に払う方法などが考えられます。
いずれにせよ、上申書の作成などケースバイケースでの対応が必要となるところですので、専門家である司法書士にお尋ねください。
なお、子供に相続放棄をさせようとする場合も、同様の問題が生じますので、やはり特別代理人の選任が必要となります。
遺産分割協議書の作成や特別代理人の選任申立て手続き、相続登記申請手続き、相続放棄手続きについては、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。