今回は、登記の移記により出現する、未来の住所での所有権登記と住所変更証明書の要否について解説します。
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想定事例
●被相続人をAとし、相続人を子であるBとする相続登記の申請を行うものと想定します。
登記記録上の現在の所有者は、豊中市甲町1番1号 A、受付番号は昭和41年10月27日第1234号、登記原因は、昭和41年10月25日売買となっています。
被相続人の現在戸籍の附票を取得したところ、被相続人の住所については、豊中市甲町1番1号 住定日:昭和41年10月31日となっていました。
ちなみに、Aさんは、昭和41年10月25日は、吹田市乙町1番1号に住んでいました。
相続登記に必要となる被相続人の住所を証する書面は、この現在戸籍の附票だけで足りるのでしょうか?
未来の住所で登記された所有者?登記の移記マジック
未来の住所での所有権登記?
上記想定事例においては、看過できない矛盾が登記上生じているように見えます。
Aが、豊中市甲町1番1号の住所に住み始めたのは、住定日である昭和41年10月31日からです。
にもかかわらず、昭和41年10月27日に申請された売買による所有権移転登記により所有者となったAの住所が、豊中市甲町1番1号となっていて、未来の住所で登記されているのです。これはあり得ないことです。
なぜ、このような登記が出現するのでしょうか・
登記の移記による住所変更の入れ込み
想定事例の登記記録のAさんの所有権移転登記の下には、実は、このような記録がなされています。
「昭和63年法務省令第37号附則第2条第2項の規定により移記 平成14年●月●日」
これは、登記簿のコンピューター化による移記が行われたことを示しています。
つまり、昔の登記というのは紙の帳簿で出来ていたのですが、これをコンピュータ化したということを示しています。
そして、このコンピューター化の移記の際に、住所変更登記の入れ込みということが行われたようです。
想定事例に沿って説明すると、登記簿上では次のようなことが起こっていたのです。
・Aさんへの所有権移転登記(所有者住所は旧住所(吹田市乙町1番1号)で登記)
↓
・Aさんの住所変更登記(昭和41年11月1日以降の申請)により、登記上の所有者住所が豊中市甲町1番1号となる。
↓
・登記簿がコンピュータ化されて移記となる。
この移記の際に、上記の住所変更登記による新住所を所有権移転登記の中に入れ込み(旧住所と入替え)、住所変更登記はコンピュータ化された時に削除となる。
この結果、所有者の住所が豊中市甲町1番1号となった所有権移転登記が記録される。
被相続人の住所を証する書面はどこまで必要か
では、上記のような住所の入れ込みが起きたときに、被相続人の住所を証する書面として、どこまで住民票や戸籍の附票を調査すればいいのでしょうか?
想定事例では、現在戸籍の附票のみ取得している状態です。
これだと、被相続人の住所氏名については、戸籍の附票と登記記録が一致しているようには見えます。
けれども、上記で説明した未来の住所になってしまっている問題はある訳です。
きちんと住所の変遷を繋げようと思えば、コンピュータ化前の登記簿を紙で取得し、昭和41年10月27日時点の被相続人Aの住所を証する戸籍の附票又は除住民票を取得する必要があるようにも思えます。
想定事例と同様の案件を弊所が担当した際に、管轄の法務局に相談したところ、コンピュータ化前の紙登記簿を登記所としては調査していないため、現在戸籍の附票の添付のみで問題ない、との回答でした。
ただし、これは、親切な登記官だから採られた措置である可能性もありますので、未来の住所問題が生じた際は、管轄の法務局に相談することをお勧めします。
相続登記や住所変更登記は、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。