今回は遺言作成の注意点、相続させる旨の遺言と遺贈する旨の遺言の違いについて解説します。
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遺言作成時の注意点~自筆証書遺言か公正証書遺言か~
遺言は、民法にその成立要件が規定されており、適法で有効な遺言を作成するためには形式的な要件を満たす必要があります。
例えば、自筆証書遺言であれば、その全文、日付、氏名を自書し押印をするということが、遺言成立の最低限の要件です。(なお、自筆証書遺言の要件緩和については、こちらをご覧ください。)
さらに、遺言の内容の文言によって、生じる効力が異なりますから、どのような言葉を使って遺言を書くべきかという点には最新の注意を払う必要があります。
当事務所では、遺言は公証役場で作成・保管される公正証書をお勧めしてるのですが、それは上記のようなハードルをクリアした適式・有効な遺言が間違いなく作成されるためです。
一方で、世間一般では、その手軽さから公正証書ではない、自らで作成した自筆証書遺言も多く作成されています。
(遺言の種類の違いや生前対策については、こちらをご覧ください。)
自筆証書遺言の場合、司法書士や弁護士、公証人といった法律の専門家の関与なく作成されるため、形式面の要件を満たしていないため無効であったり、遺言者の狙いとは違う効力が生じたり、物件の特定があいまいなため登記申請に支障が生じたりすることがありますので要注意です。
想定事例~配偶者へ遺贈する旨の遺言~
Q:私の母が先日亡くなりました。相続人は、父と私と弟の3人です。母は自筆証書遺言を残しており、「私の財産の全てを夫であるAに遺贈する。」と書かれていました。
母の遺産は自宅不動産の共有持分1/2だけなのですが、これで相続による名義変更の登記はできるのでしょうか?
(※相談内容は、想定になります。)
A:お母様の残された遺言を使って相続登記を申請することはできますが、その登記原因は遺贈となり、相続人全員が義務者として登記申請手続きを行わなければなりません。
なお、家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を選任した場合は、遺言執行者と受遺者であるお父様の2者が登記手続きを行えば、登記することができます。
相続させる旨の遺言と遺贈する旨の遺言の違い
相続させる旨の遺言
法定相続人に対して特定の遺産を取得させる場合、通常、遺言の文言は「~に~を相続させる。」とします。
これは、特定財産承継遺言というもので、原則として、被相続人による遺産分割の方法の指定であるとされています。
そのため、被相続人が亡くなったのと同時に、指定された相続人が相続を完了していると考えられています。
この相続させる旨の遺言により、相続登記を申請する場合、登記原因は「相続」となり、相続人の単独申請によることが可能ですから簡便です。
(遺言執行者からの登記申請の可否については、こちらをご覧ください。)
なお、相続による登記の場合は、登録免許税は0.4%となります。
遺贈する旨の遺言
一方で、法定相続人の一人に対して「遺贈する」という文言での遺言の場合、これはあくまで「遺贈」であると解釈されることとなります。
遺贈というのは遺言による贈与のことです。ですから、登記申請をする際の登記原因は「遺贈」となります。
遺贈の場合、登記申請は共同申請となり、権利者である受遺者と義務者である相続人全員が関与しなければなりません。
また、相続による登記と異なり、義務者である相続人全員の印鑑証明書や権利証などを添付する必要があり、手続きが煩雑となります。
ただし、家庭裁判所に申し立てて、遺言執行者が選任された場合は、義務者はその遺言執行者となりますので、相続人全員の関与は不要となります。(権利者である受遺者の関与は必要です。)
なお、遺贈による登記の場合は登録免許税は2%となりますが、受遺者が相続人の場合は0.4%に減税されます。
遺贈する旨の遺言であっても相続による登記となる例外
「~に~を遺贈する」といった遺言であっても、登記原因を相続として登記できる場合があります。
それは、法定相続人全員に対して、包括的な割合で遺贈する旨の遺言をした場合です。
具体例の方が分かりやすいのですが、要は、
「全財産のうち、相続人Aに3分の1、相続人Bに3分の1、相続人Cに3分の1を遺贈する。」
といったような遺贈する遺言のケースは、相続による所有権移転登記が可能となります。
公正証書遺言、秘密証書遺言の作成や自筆証書遺言の作成サポート、遺言による登記申請手続きは、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。