今回は、令和元年に成立した司法書士法の改正について、解説します。
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令和元年司法書士法改正での改正点
令和元年6月6日の司法書士法改正では、主に以下の3点について、改正がなされました。
・使命の明確化
→後ほど、詳しく解説します。
・懲戒手続の適正・合理化
→懲戒権者を法務局長から法務大臣とし、7年の除斥期間を設けることとなりました。
懲戒権者が大臣となることは、登記以外の領域が拡大している司法書士業務について、適正な懲戒がなされることになります。
また、懲戒権者が格上の大臣となることで、司法書士の社会的地位の向上につながると思います。
・一人法人の設立の可能化
→司法書士2名以上でなければ設立できなかった司法書士法人を、1名だけでも設立できるようになりました。
一人法人の活用により、本職一人の事務所でも上手く節税したり、使用人司法書士を雇用することの適法性が明確になったりするものと考えられます。
なお、改正法の施行日は、成立の日から1年6カ月以内とされていますので、令和2年中には施行されるものとなります。
使命規定の創設とその影響
目的規定とその弊害~高松高裁判決から~
今回の改正では、司法書士法第1条の目的規定が使命規定に変更されました。
まず、従来の目的規定を見てみます。
(目的)
第1条 この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、登記、供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もって国民の権利の保護に寄与することを目的とする。
この条文から、司法書士法というものは、「司法書士」を職業とする者を政府によって監督し、不正が無いよう規制し、法務局や裁判所の手続きがスムーズに行われるようにすることが主の目的であることが読み取れます。
このことは、愛媛県の司法書士が弁護士法違反に問われた、昭和54年の高松高裁判決からも読み取ることができます。
以下、高松高裁判決の引用ですが、これは司法書士の裁判書類作成関係業務(本人訴訟支援)の限界に関して良く引用されるフレーズです。
「・・・司法書士が他人から嘱託を受けた場合に、唯単にその口述に従って機械的に書類作成に当たるのではなく、嘱託人から真意を聴取しこれに法律的判断を加えて嘱託人の所期の目的が十分叶えられるように法律的に整理すべきことは当然であり、職責でもある。(中略)・・・
・・・司法書士が行う法律的判断作用は、嘱託人の嘱託の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)の運営に支障を来さないという限度で、換言すれば法律常識的な知識に基く整序的な事項に限って行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、・・・如きは司法書士の業務範囲を超えたものといわなければならない。・・・」
この判決文で出てくる「司法(訴訟)の運営に支障を来さないという限度で」というのは、おそらく、当時の司法書士法第1条の目的規定の「訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し」を反対解釈したものです。
当時の司法書士法の性格が規制法であったが故に、司法書士の職域を狭く解釈したものであると考えられます。
使命規定の創設による解釈の変更
しかし、今回の司法書士法改正で、目的規定が使命規定となったことで、上記の司法書士法の解釈が大きく変わる可能性を秘めています。
改正後の使命規定を見てみたいと思います。
(司法書士の使命)
第1条 司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟、その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。
使命規定に基づいて考えれば、司法書士の職域限界の解釈は、司法書士を規制するという方向からのアプローチではなく、司法書士が法律事務の専門家であり、国民の権利を擁護する使命を帯びているということから行われるべきものとなります。
そうであれば、上記の高松高裁判決のような、「法律常識的な知識に基く整序的な事項に限って」というような言葉を使うことはできないはずです。
「法律常識的」という言葉は、「法律事務の専門家」という言葉と真正面から矛盾するからです。
もちろん、「訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し」という目的は廃止されている訳ですから、「司法(訴訟)の運営に支障を来さないという限度で」というような解釈をすることもできないと考えられます。
使命規定の創設で、裁判書類作成関係業務(本人訴訟支援)における司法書士の法律判断権がこれまでより拡大し、専門家としての裁量的判断権が明確にされるべきであると考えます。
(法務省は通達などによって明確にすべきではないでしょうか。)
今回の使命規定の創設によって、司法書士が名実ともに法律事務の専門家となることを願ってやみません。