今回は、「長男には一切相続させない」との遺言がある場合の、法律判断やその手続きについて、解説します。
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想定事例(一切相続させない遺言の効力は)
今回の想定事例は、Xが死亡し、その相続人は妻Aと長男B、長女Cであるものとします。
そして、Xは、自筆証書遺言を残していて、遺言執行者には司法書士甲が選任され、遺言の内容の中に「長男には一切相続させない」との文言があるとします。
なお、妻Aや長女Cには、各遺産を「相続させる」旨の文言があり、遺産は全て分配されているものとします。
法律上の効果は相続分0?
まず、この文言から最初に考えつくのは、長男Bの相続分が0であるということです。これは、法律上は、遺言による相続分の指定であると判断できるでしょう。
なるほど、では、長男Bは何も相続せず、他の相続人である妻Aや長女Cには、遺言の指定に従って遺産を相続させればいいのだと思えます。
しかし、そのような法律構成を取った場合、長男Bは何も貰えず納得がいかないでしょう。すると、長男Bは、妻Aや長女Cに対して、遺留分侵害額の請求をすることとなり、紛争が生じてしまいます。
遺留分と言うのは、相続人に最低限保障されている、相続の取り分のことです。
結局、長男Bは、遺留分侵害額に相当する金銭(=遺産の1/8相当)を取得しますから、これでは「長男に一切相続させない」としたXの遺志は達成されないこととなります。
遺言による廃除の検討
そこで、検討するのは遺言による廃除の可否です。
「長男に一切相続させない」などという文言を書くくらいですから、生前のXと長男Bの間には、何か軋轢があったというのは想像に難くありません。
つまり、ただ単に長男の相続分を0にするというだけでなく、長男の遺留分をも奪う趣旨であった可能性があります。
廃除という手続きは、相続人から相続権を失わせ、その遺留分をも失わせる制度となっていますから、Xの遺言の趣旨が廃除まで行うことを望んだものだったのかどうか、検討する必要が生じるのです。
今回のケースでは、遺言執行者である司法書士甲は、Xがそのような遺言をした背景事情などを調査して、Xの真意を探る必要があります。
もし、Xの真意が、長男Bを廃除までするところにあると判断されるのであれば、司法書士甲は、家庭裁判所に対して、廃除の手続きを行うことになります。
「一切相続させない」遺言をする際の注意点
遺言による廃除の準備
遺言による廃除を行う場合、過去の軋轢などの事情を最もよく知っている被相続人本人は死亡してしまっていますから、ただ単に遺言を提出するだけでは、家庭裁判所が廃除を認めない可能性があります。
ですので、遺言による廃除を希望する被相続人本人は、遺言だけでなく、廃除の原因となる相続人の行った被相続人への虐待や侮辱や非行についての証拠を生前に準備しておく必要があります。
遺言を書く際の文言に注意
これまで解説してきましてように、単に「〇〇に一切相続させない」とする遺言では、その解釈に疑義が生じてしまいます。
遺言を書く際には、「〇〇の相続分を0に指定する」や「〇〇を廃除する」などと、明確に記載する方が良いでしょう。
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