今回は、中小企業M&Aの代表スキームである株式譲渡に伴って生じる役員変更などの商業登記について、解説したいと思います。
事業承継・M&Aについてはこちらを、株式譲渡のクロージングについてはこちらをご覧下さい。
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株式譲渡に伴って発生する商業登記(会社の登記)
役員変更の登記
中小企業M&Aの代表的スキームである株式譲渡を行うと、譲渡企業は譲受企業の子会社となりますので、大多数のケースでは旧役員が辞任し、買手企業から新役員が送られてきて、新規に就任することとなります。
株式譲渡の決済においては、二重譲渡や差押えのリスクがある不動産売買の決済に比べれば、役員変更などの登記申請の重要性は低いです。
しかし、決済日=役員変更日としたいニーズが一定数あることや、商業登記事項は登記をした後でなければ善意の第三者に対抗できない(会社法908条)ことから、株式譲渡の決済時に、役員変更登記ができることのGOサインを司法書士が出す意義は大きいと考えます。
一般的な株式譲渡の場合、譲渡企業の旧役員の辞任届は、決済日の日付で作成されることとなり、決済時に売主から引き渡す書類となります。
印鑑登録をしている代表取締役の辞任届には、会社実印で押印するか、個人実印で押印して印鑑証明書を添付する必要があります。
一方、譲受企業から送り込まれる新役員については、株式譲渡のクロージング(決済)日の決済実行の直後に行われる、新株主(譲受企業)による対象会社の臨時株主総会で選任され、同日に就任承諾をする形となります。
新代表取締役については、取締役会設置会社では、上記の臨時株主総会の直後の取締役会で選定します。
取締役会を設置していない会社においては、定款で代表取締役の選定機関を株主総会か取締役の互選と定めているケースがほとんどですので、上記の臨時株主総会かその直後の互選において、新代表取締役を選定します。
登記申請する際のポイントとしては、旧代表取締役の辞任時期を、新代表取締役選任する取締役会や互選の終結時にしておくことになります。
株式譲渡の決済を実行した時点で代表取締役が辞任してしまうと、株式譲渡後の新役員を選任する臨時株主総会の議長がいなくなってしまうからです。
また、新代表取締役の選定議事録に、旧代表取締役が押印することが可能となりますので、選定議事録に押印した取締役の印鑑証明書の添付を省略することが可能となるメリットもあります。
なお、登記申請に添付する株主リストは、M&A後の新株主(譲受企業)となりますから、注意が必要です。重要物品である株主名簿との整合性も取っておくべきでしょう。
取締役会の定め廃止又は設定等の登記
M&A(株式譲渡)に伴って、対象会社を買手企業の思うガバナンスに変更することがしばしば起こります。
具体的には、株式譲渡直後の新株主(買手)による臨時株主総会で、取締役会を廃止したり、逆に設置したりすることが挙げられます。
取締役会を廃止した場合は、監査役を同時に廃止することも、残すこともどちらも可能ですので、買手企業の意向に従います。
一方で、取締役会を設置した場合は、必ず監査役を置くこととなりますので、買手企業から人材を送り込めるのか、事前に確認しておく必要があるでしょう。
上記の取締役会を廃止又は設置をした後に、新代表取締役を選定する手続の流れになりますので、新代表の選定機関を間違えないようにすることにもご注意下さい。
本店移転の登記
株式譲渡に伴って、対象会社の本店を移転することとなる場合があります。
最も多いのが、社長の自宅に登記簿上の本店を置いていて実体がなく、別の場所に事務所や工場があるケースです。
譲受企業の子会社となった後に、旧社長(売主)の自宅に登記上の住所があると何かと不都合ですから、株式譲渡の際に本店移転することがあります。
株式譲渡の完了後に速やかに本店移転すれば問題ない事が多いため、譲受企業の任意のタイミングで本店移転を行うことも多いのですが、決済日に直ちに本店移転したいという場合もあり、その場合には決済直後の臨時株主総会や取締役会で、本店移転を決議することとなります。
本店移転に伴って、定款変更を要することがありますので、定款に本店所在場所(具体的な住所の番地まで)を記載しているかどうかや、市町村をまたいだ本店移転なのかどうか、確認が必要です。
M&A(株式譲渡)に伴う役員変更や取締役会の設置や廃止などの商業登記申請は、豊中司法書士ふじた事務所にお任せ下さい。