今回は、相続問題について、想定事例を使って解説致します。
故人の遺産の中に、借金などの負債がある場合、相続をどう片付けるかは、悩ましい問題です。
このページの目次
借金は放棄したいけど、自宅も残したい。どうしたらいいの?
Q 父が亡くなりました。相続人は、母と長男である私の2人です。父が残した遺産は、自宅の土地建物1000万円相当と1500万円の借金になります。
資産よりも借金の方が多い債務超過の状態であるため、相続放棄も検討していますが、自宅には母が住み続けるため自宅は残したいと思っています。
何とかならないでしょうか?
(事例は想定になります)
A 相続放棄の手続きを取ってしまうと、借金だけでなく自宅の土地建物も放棄することになります。借金だけを放棄することはできません。
ただし、限定承認の手続きを取り、その中で先買権を行使することにより買取代金はかかりますが、自宅を確実に取り戻すことができます。
相続財産管理人の任意売却
債務超過であるため、まず思いつくのが相続人全員が相続放棄の手続きを取ることです。
そうすると、相続人不存在となりますが、家庭裁判所に申し立てることにより、遺産である自宅と借金は、選任された相続財産管理人によって管理されることとなります。
相続財産管理人は、通常、自宅を売却して借金を返済しようとしますから、そこで母又は長男が任意に買取りを申し出ることは可能です。
しかし、母又は長男よりも高値で買い取りを申し出る第三者が出現してしまうと、取得できない可能性がありますので確実な方法とは言えません。
限定承認手続きと先買権
そこで取り得る手段としては、限定承認手続きとその中での先買権の行使になります。
限定承認というのは、相続人全員によって申立てを行い、プラスの遺産の限度でのみ負債などのマイナスの遺産を相続する、という手続きになります。
今回のケースで言えば、プラスの遺産である自宅を競売にかけ、売却代金の限度で借金を返済し、残りの借金はチャラになる、ということになります。
この自宅の競売が行われる際に、民法932条に基づく先買権を行使することにより、限定承認をした母又は長男が優先的に自宅を買い取ることが可能となります。
この先買権による買取りの金額は、家庭裁判所の選任した鑑定人の評価に基づくこととなります。
相続を単純承認して自宅も借金も相続した場合と比較すると、限定承認を行った場合は、買い取り代金1000万円に代わって1000万円相当の自宅が手に入り、かつ、借金は500万分免除になるので、限定承認を行った方が得だと言えるでしょう。
みなし譲渡所得は考慮しなくていい?
限定承認手続きを取った場合のリスクとして有名なものは、みなし譲渡所得税の課税があります。
これは、限定承認手続きを取るだけで、被相続人に対して、実際の譲渡行為がないにもかかわらず、みなしで遺産に対して譲渡所得税がかかるものです。
しかし、今回のようなケースは、最初から遺産は債務超過ですので、みなし譲渡所得の課税リスクは考慮する必要はありません。
限定承認手続きや先買権の行使については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。なお、みなし譲渡所得など、税務上の問題については懇意の税理士をご紹介致します。