相続の生前対策は、①円満な遺産分け、②相続税対策、③納税資金の確保が3本柱となりますが、それぞれに具体的な対策方法について、ご紹介していきます。
このページの目次
① 円満な遺産分けのための対策
遺言書作成
遺言書を作成することにより、相続人間での遺産分けの方法を指定したり、相続人以外の方に財産を贈与したり、さらには、婚外子の認知をしたりなどをすることができます。
要は、遺言者の思った特定の方に遺産を譲ることができるのです。
もし、遺言書がなかったら、法定相続人全員でどの遺産を誰が取得するかを決める遺産分割協議を成立させなければならないのです。
遺産分けの話し合いで揉めることが想定される場合、遺言書を遺留分などの法的リスクに留意しながら上手く作成することで、紛争や裁判となることを防ぐことができます。
遺言書は故人の思いを形にすることができる大切なメッセージであり、紛争予防の手段なのです。
遺言書の種類
遺言書の種類と検認については、こちらをご覧ください。
自筆証書遺言は、面倒な手続きはありませんが、法律で定められた形式に従っていない場合は無効となるリスクがあります。
弊所では、自筆証書遺言の作成サポートを行っていますので、適法な遺言書が作成されるようお手伝いをさせて頂きます。
また、自筆証書遺言を法務局に保管してもらう制度もありますので、まずはお気軽にご相談ください。
次に、公正証書遺言についてですが、公証人のチェックが受けられるため法的に間違いのない遺言書が作成でき、かつ、公証役場に保管され安全である点がメリットとなります。
遺言書を作成した方が良い場合
以下に該当する方は、紛争を防止し想いを実現するために、遺言書の作成をご検討されてはいかがでしょうか。
- 妻(夫)はいるが子供はいない 遺言がない場合、相続人は奥様(旦那様)とご自身のご兄弟となってしまい、遺産分割協議が困難となるおそれがあります。奥様(旦那様)に全財産を相続させる遺言が有効となります。
- 先妻、先夫との間に子供がいる 先妻、先夫との子供とはどうしても疎遠となりがちですが、法律上は相続権が実子と同じくあります。遺産分割協議も難航が予想されますから、遺言により遺産分けの方法を明確にしておくことが有効となります。
- 内縁の夫、妻がいる 内縁の夫や妻には、法律上相続権がありません。遺言書を作成することによって、内縁の夫、妻に遺産を残すことができます。
- 子供の配偶者(お婿さん、お嫁さん)に遺産を分けたい。 子供の配偶者には、相続権がありませんから、遺産を分けてあげたい場合は、遺言書を作成する必要があります。
遺留分は要注意
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分といって、最低限の遺産の分配を受けることを請求できる権利があります。
大雑把に言うと、遺言によって全財産を妻に相続させたとしても、他の相続人である子供がいる場合、子供には遺産のうち1/4の取得を請求(2019年7月1日以降は金銭の取得請求のみ可)する権利があります。
遺留分を侵害する形での遺言を書いてしまうと、遺言者がお亡くなりになったのちに、遺留分を巡り紛争や訴訟となるリスクが生じてしまいます。
遺言を書く際には、遺留分に配慮する必要があります。遺留分の計算式は思った以上に複雑ですので、専門の司法書士にご相談ください。
遺留分のリスクを回避した形での遺言の内容をご提案いたします。
② 相続税対策
相続税の対象となる財産額は?
相続税の対象となる遺産額の計算では、遺産の総額に、次の1)の金額を加算し、2)の金額を控除することとなります。
1)加算するもの
- 死亡前3年間の贈与
- 生命保険の受取額
- 死亡退職金
2)控除するもの
- 基礎控除額(3,000万円+600万×法定相続人数)
- 債務(借金など)の金額
- 生命保険、死亡退職金については、それぞれ500万円×法定相続人数
- 墓地、墳墓などの評価額、葬式費用
相続税対策の具体的な方法
相続税対策では、1)生前贈与によって相続財産を減らす、2)各種控除の対象を増やす、3)相続財産の評価額を下げる、という3つの手法が考えられます。以下、詳しい方法について、ご説明致します。なお、相続税対策については、税理士と共同して行います。
1)生前贈与
通常、贈与には高額な贈与税が課税されますが、無税で生前に贈与できる様々な制度がありますので、活用し相続税の対象となる遺産を減らします。
- 暦年贈与 贈与は毎年110万円までは無税で行えますので、複数年かけて子供などに財産を贈与していきます。
- 相続時精算課税の利用 2,500万まで無税で贈与でき、それ以上の贈与は一律20%の課税となる制度です。贈与した財産は相続税の対象となり精算されます。賃貸マンションなど収益を生む不動産や値上がりが予想される自社株などに適しています。
- 配偶者控除 婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、上記の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できます。
- 住宅取得資金贈与 親から20歳以上の子や孫に住宅資金として現金を贈与する場合、一定の金額までは贈与税がかかりません。 2020年3月1日までは、省エネ住宅及び耐震住宅の場合1,200万円、一般住宅の場合700万円までが非課税となります。(※契約の時期によって非課税枠の金額が異なります。)
- 教育資金一括贈与 父母や祖父母が、子や孫名義の口座を開設し、教育資金を一括して贈与した場合、子・孫1人あたりにつき1,500万円までが非課税となります。ただし、学校以外の塾などに支払われるものは500万円が限度となります。 資金の使途については、金融機関に領収書を出すことによって管理されます。 なお、子・孫が30歳になるまでが期限であり、使い残しや教育以外に使った場合は、贈与税が課税されます。
- 結婚・子育て資金一括贈与 2019年3月31日までの間に、20歳以上50歳未満の方が、結婚・子育て資金に充てるために、父母や祖父母から金銭の一括贈与を受け、それを口座に入れるか有価証券の購入に充てた場合等には、1,000万円(結婚は300万円まで)までの金額について、非課税となります。 資金の使途については、金融機関に領収書を出すことによって管理されます。 なお、受贈者が50歳となった時に残額がある場合は、贈与税の対象となります。
2)生命保険を活用する
生命保険は、遺産分割対策、納税資金の確保、相続税対策の全てにおいて、効果を発揮します。
まず、生命保険の受取金は、遺産分けをする上では相続財産ではないため協議の対象とならず、あくまで受取人固有の財産となります。
例えば、長男が老後の面倒を見てくれたため、他の兄弟よりも多く遺産を渡したい場合、長男を生命保険の受取人とすることが考えられます。
次に、生命保険は相続発生後すぐに現金化できるため、納税資金対策としても有効です。相続発生後は、故人の口座は通常凍結されますから、葬式費用や登記費用などの捻出にも役立ちます。(なお、2019年7月からは、預貯金の仮払い請求が可能となります。)
さらに、生命保険の受取金は、税法上はみなし相続財産となり相続税の対象となりますが、500万円×法定相続人数の非課税枠があるため、現金で相続するよりも生命保険に変えておいた方が、相続税を抑えることができます。
3)遺産の評価額を下げる
遺産の評価額を下げる代表的な方法に、不動産の購入があります。
相続税の計算上、実際の価格と比べて、宅地は80%程度(路線価評価)、建物は50%前後の評価(固定資産税評価)となるからです。また、賃貸することによりさらに評価額が下がります。
例えば、故人が現金で1億円を持っていれば、その全部が相続税の対象となってしまいます。
しかし、その1億円で5,000万円の土地を購入し、5,000万円の建物を新築して賃貸した場合、概算ですが、相続税の計算上の建物の評価額は1,750万円程度に、土地は3,300万円程度に下げることが可能となり、相続税を半分近くにまで減らすことができます。
※具体的な詳しいシミュレーションは税理士にて行います。
③ 納税資金の確保
相続税は、相続開始後10カ月以内に、原則として現金で納める必要があります。(物納や延納という方法もあります。)
現金を確保するために行う対策としては、以下のものが考えられます。
- 広大な土地がある場合は、分筆して売却する
- 生命保険に加入しておく
- 自社株がある場合は、会社に株を買い取ってもらう
- 金融機関から借り入れる
- 会社オーナーの場合、退職慰労金を支給してもらう など
なお、納税資金の確保については、税理士、土地家屋調査士等と共同して行います。