今回は、葬儀費用と相続の関係について説明します。葬儀費用は遺産から支払うのか、喪主が払うのかなど、疑問に答えます。
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葬儀費用を相続財産(遺産)から支出するのは妥当か
葬儀費用は、亡くなった故人に関する支出であり、一見、遺産の中から支出することが妥当であるような気がします。
しかし、法律上は、葬儀費用はあくまで被相続人の死亡後に発生する債務であるため、相続財産には含まれないとも考えられますし、民法上も規定は存在しません。
では、どこから支出するのが妥当なのかについては、主に以下の5つの説があります。
①喪主が負担するとする説
②相続人が負担するとする説
③遺産の中から負担するとする説
④慣習や条理によって決まるとする説
⑤遺産分割協議によって決まるとする説
現実問題としては、遺産から支出するか、喪主が負担することになることが多いとは思われます。
遺産から支出する場合は、他の相続人からあえて争わないというケースが多いとは思いますが、異議が出ていないことを前提にした方がいいでしょう。
また、喪主を務める方は、自分が葬儀費用を負担する可能性があることを認識されておいた方がいいでしょう。
この場合、香典については、香典返し分を控除した額を葬儀費用に充てることとなります。
なお、それでも余った香典については、喪主に帰属する説と相続人に帰属する説がありますから、相続人間で協議して決めた方が安全でしょう。
葬儀費用を遺産から支出する場合の現金の確保~仮払い制度の活用~
相続人の中から特に異論が出ない場合、遺産の中から葬儀費用を支出することは可能ですが、この場合に現金をどうやって確保するかという問題が生じます。
というのも、被相続人が死亡した場合、金融機関は預貯金を凍結してしまうためです。上手く引き出せれば、大きな問題にはならないのかもしれませんが、お勧めできる方法ではありません。
もし、口座が凍結してしまったけれど、葬儀費用を支出しなければならないことになった場合は、預貯金の仮払いの制度を使うと良いでしょう。
この制度を使えば、遺産分割協議の成立前であっても、法定相続分×1/3と150万円のどちらか低いほうまでは、預金を引き出すことができます。
ただし、仮払いにより引き出した預金は、その相続人が遺産の一部の分割により取得したものとみなされます。
つまり、遺産の先取りとなってしまいますので、喪主が葬儀費用を負担するケースでは特に問題になりませんが、遺産から葬儀費用を支出する場合は、各相続人がそれぞれ仮払いを受けて均等に支払いに充てることによって、後日の紛争を防止できると考えられます。
遺言書で遺産の中から葬儀費用を支出すると指定することは可能か
故人が適法な遺言書を残している場合、その中で葬儀費用は遺産の中の〇〇銀行の預金から支出する、などと指定することが考えられます。
しかし、遺言というのは、効力が発生する事項(遺言事項)が法律で定められており、それ以外の事項について遺言に書いても効力が生じないのが原則です。
また、上述したように、葬儀費用というのは故人の死後に発生するものであるため、相続財産(遺産)には含まれないため、仮に遺言執行者がいたとしても、その職務の対象範囲には含まれないと考えられます。
結局のところ、遺言により葬儀費用を遺産から支出する旨が規定されている場合、それを見た相続人全員が故人の遺志を汲み取り、合意の上、遺産から支出している、と考えざるを得ません。
上記のように、遺言での葬儀費用の支出の指定は疑義がありますから、死後事務委任契約を結ぶなどして対策しておくことをお勧めします。
相続手続きや相続登記、遺言書の作成や死後事務委任契約については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。