今回は、名義貸しによって真実と異なる登記名義を、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記によって元に戻す方法について解説します。
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登記の名義貸しは可能なのか?犯罪に該当する?
まず、大前提として、不動産の登記というのは、取引の安全に資するため、真実を映し出す鏡である必要があるというのが不動産登記法の規定するところになります。
我々司法書士も、登記申請にあたっては、人・物・意思を確認し、不実の登記が現出しないよう、細心の注意を払います。
さらには、虚偽の登記申請により虚偽の登記記録を作出した場合は、公正証書原本不実記載罪という罪に問われる可能性すらあるのです。
けれども、不動産登記申請というのは、本人申請を許容しており、必ずしも専門家が関与しているとは言えない所があり、様々な事情により名義貸しが行われていたりするようです。
例えば、借金を抱えて差押えを受けるリスクがある人が不動産を購入する場合に、代金は自分が負担するけれども、第三者である親戚の名義を借りて登記する、などといったケースです。これは、上記のとおり犯罪の構成要件に該当することであり、絶対にやってはいけません。
けれども、そのような名義貸しを過去にやっていて、この度、名義を元に戻したいというようなご相談を頂くことはあります。
抹消登記か真正な登記名義の回復か
名義貸しによる不実の所有権移転登記を、実体に即した形に修正する方法は2つあります。
①名義貸しによる移転登記を抹消→前所有者から改めて、真の所有者への移転登記を申請
②名義貸しによる所有権者から真の所有者へ真正な登記名義の回復を原因として移転登記を申請
対応としては、まず、①の方法にトライをすべきということになります。前所有者の協力が得られず、①が不可能となった場合に②を行うこととなります。
なぜなら、②の真正な登記名義の回復による所有権移転の登記原因証明情報には、前所有者の協力が得られず①の方法が採用できない旨を記載する必要があるからです。(山野目章夫「不動産登記法」P372)
なお、ある法務局に照会しても、まずは前所有者に協力を依頼する必要があるという回答がありました。
公訴時効の成立の検討
真正な登記名義の回復による所有権移転登記申請書に添付する登記原因証明情報には、名義貸しがあった事実を記載する必要があります。
つまり、公正証書原本不実記載罪があったことを法務省に自白するようなものになってしまいます。
登記手続上は、淡々と登記が実行されていくことになりますが、公務員は犯罪の事実があると思料する場合には告発する義務があるため、クライアントが刑事事件に巻き込まれる可能性が生じてしまいます。
ただし、公正証書原本不実記載罪は、5年で公訴時効が成立しますので、要確認です。
前所有者への協力依頼はどの程度すべきか?
上記①の前所有者への抹消登記の協力依頼をするためには、前所有者の住所なり電話番号を知る必要があります。
多数のケースでは、前所有者は見ず知らずの人でしょうから、登記簿上の住所しか分からないものと思われます。
某法務局に照会したところ、登記簿上の住所宛てに協力依頼の手紙を送付し、届かなかったり長期間返事がない場合は、抹消登記は不可能として真正な登記名義の回復による移転登記も可との回答を得たことがありました。
(ケースにより判断が異なる可能性はあります。)
以上、真正な登記名義の回復による移転登記について解説しました。
登記の名義貸しを元に戻す真正な登記名義の回復による移転登記申請については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。