今回は、3か月過ぎの相続放棄の可否と、認知症などで判断能力がない方の相続放棄について解説します。
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想定事例~3か月過ぎの相続放棄と、重度の認知症の方の相続放棄の可否~
Q:Aと申します。2年前に私の母が亡くなったのですが、先週、金融機関から連絡があり、母が知人の保証人になっていた債権があるので、3000万円を支払って欲しいと請求されました。
母の財産は弟が管理していましたが、母が亡くなった時に遺産などは一切ないと遺族全員が認識していましたので、保証人になっていたというのは初耳です。
母の相続人は、父と私と弟の3人になります。ただ、父は、母が亡くなる以前から重度の認知症で、判断能力がありませんし、持っている財産はそれ程多くはありません。
私たちは相続放棄をすることはできるのでしょうか?
(※ご相談の内容は実際のものと異なり、変更を加えています。)
A:まず、お母様の死亡から3カ月過ぎの相続放棄の可否ですが、ご相談の件では、判例の示している要件を満たしているものと考えます。
ですので、金融機関からの請求から3カ月以内であれば相続放棄は可能でしょう。
次に、お父様が相続放棄できるかどうかについてですが、相続放棄をするためには本人に意思能力(≒判断能力)が必要ですから、今のままだと相続放棄ができません。
対策としては、お父様に成年後見人を選任することが考えられます。また、お父様の財産はあまり多くないようですので、失っても特に問題がないのでしたら、相続放棄をせずにそのままにしておくという判断もあり得るところです。
3カ月過ぎの相続放棄ができるかどうか
原則として、相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内にする必要があります。
ご相談のケースでは、保証人になっていたお母様は2年前に亡くなっていますので、原則どおりでは相続放棄できません。
そこで、昭和59・4・27の判例が示している3か月過ぎの相続放棄ができる要件について、検討していくこととなります。
3カ月過ぎの相続放棄について、詳しくはこちらをご覧ください。
ご相談のケースでは、被相続人である母の死亡時に、
①遺産が全くないと信じた、
②そう信じることに相当な理由があった、
③遺産の調査を行っていた、
という要件を満たしていると考えられますので、3か月過ぎの相続放棄は可能ということが言えるでしょう。
なお、ご相談のケースでは、被相続人の子である2人が相続放棄すると、被相続人の直系尊属(親や祖父母)が次に相続人となり、直系尊属がいない場合は、兄弟姉妹が相続人になりますので、その方達も相続放棄の手続きを検討する必要がありますので、ご注意ください。
認知症など判断能力がない方の相続放棄と成年後見人
相続放棄は、家庭裁判所に対して相続放棄の申述という手続きを取って行いますので、申述者は意思能力(=判断能力)を有していることが必要です。
認知症の場合、必ず意思能力がないという訳ではないのですが、重度の認知症場合は意思能力を喪失していると考えられます。
ご相談のケースでは、父が重度の認知症ですから、そのままでは相続放棄をすることはできません。
対策としては、成年後見人を選任してから、その後見人に代理人として相続放棄の手続きを行って貰うことが考えられます。
ただ、成年後見人の選任手続きには数カ月の時間を要しますから、選任手続きの間に3ヵ月が過ぎて相続放棄ができなくなるのではという疑問があります。
これについては、成年後見人が相続人のために相続の開始があったことを知った時から、熟慮期間の3ヵ月が起算されるという規定がありますので、成年後見人の選任手続き中に相続放棄の期限が切れてしまうということはありませんので、ご安心ください。
以上、3ヵ月過ぎの相続放棄の可否と、認知症など意思能力がない方の相続放棄について解説しました。
相続放棄の手続きや成年後見人の選任申立てについては、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。