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経営者の高齢化
我が国には約380万者の企業がありますが、その経営者の平均年齢は66歳を超えると言われています。企業の経営を後継者にスムーズに承継することは、日本の経済力や技術力を維持する上でも非常に重要なポイントとなっています。
事業承継の方法
事業承継には2つの形があります。それは、親族内承継と親族外承継になります。
親族内承継は、オーナーのご子息や孫など、親族が承継する方法です。
親族外承継は、役員や従業員など、親族ではない者が承継する方法になります。
なお、外部の企業による買収により資本提携し、会社を存続させるM&Aについては、こちらをご覧ください。
事業承継の流れ
事業承継は、以下のような流れで行うこととなります。これは、通常、顧問の会計士や税理士により進められていくことになります。
当事務所は、事業承継のスキーム選択の段階から法的視点による検討を加えたり、スキームの実行に必要となる法的手続きや書面作成を行うことにより、支援していきます。
STEP1.事業承継に向けた準備の必要性の認識
STEP2.経営状況・経営課題等の把握(見える化)
STEP3.事業承継に向けた経営改善
STEP4.事業承継計画を後継者と策定orM&A等の実行
STEP5.ポスト事業承継
親族内承継
親族が企業の経営権を承継するには、自社株について①贈与、②相続、③売買を行う方法によることとなります。
①売買
まず、売買による場合は、買取りの資金の確保が問題となります。後継者を事前に役員にして報酬を与えたり、会社や金融機関から借り入れるなどの方法が考えられるところです。
なお、売買にすれば、贈与や相続の場合とは異なり遺留分の問題は生じません。
税金については、売買による譲渡所得に約20%の課税があります。
法的手続きについては、売買契約書の作成、株式の譲渡承認手続き、株主名簿の名義書換え、株券の交付等が必要になります。
②贈与
次に、贈与ですが資金の確保は必要ないものの、贈与税の対策を考える必要があります。
一定の要件を満たすことにより事業承継税制を使えれば、贈与税の納税猶予や免除を受けることができます。また、自社株式の値上がりが予想される場合は、相続時精算課税制度を使って課税を繰り延べることも考えられます。
事業承継するに当たり、前もって株式の評価額を下げる対策を行っておくことも考えられます。(税務上の対応については、税理士と共同して行います。)
法的手続きについては、贈与契約書の作成、株式の譲渡承認手続き、株主名簿の名義書換え、株券の交付等が必要になります。
また、後継者に株式を一括して贈与する場合は、他の相続人の遺留分にも留意する必要があり、遺留分の放棄や民法の特例の活用などが考えられるところです。
③相続
相続による場合、相続人間の遺産分割協議に任せてしまうと後継者が必要な株式を必ず取得できるとは限らないため、遺言により自社株の相続人を指定しておくことが必要となります。
この場合も生前贈与と同じく、遺留分に留意しつつ遺言書を作成する必要があります。
相続税については、一定の要件を満たすことにより事業承継税制を使えれば、相続税の納税猶予や免除を受けることができます。また、グループ内企業で合併したり、所有資産の含み損を実現させるなどして、自社株の相続税評価額を下げる対策をあらかじめ行っておくことも有用です。(税務上の対応については、税理士と共同して行います。)
親族外承継
親族外の役員や従業員等に承継する場合は、所有と経営を分離する方法と一致させる方法の2つが検討されます。
所有と経営の分離の検討
オーナーが引き続き株式を保有したまま、自社の代表取締役を他の者に交代することにより経営を引き継ぐ方法があります。ただし、将来の株式の承継の問題は残りますので、その間に親族内の後継者を育成するなど、対策が必要です。
また、種類株式を活用することも考えられます。取得条項付株式にしておくことで、一定の事由が生じた時に会社がその株式を取得することができますので、一時的に親族外の者に経営を任せる場合に設定することが考えられます。また、旧オーナーが拒否権付株式(黄金株)を持つことで、経営に対する影響力を維持した上で、親族外の者に事業を承継することも考えられます。
所有と経営の一致
通常、親族外承継の場合は、売買により自社株を取得することとなりますが、その資金の確保が問題となります。
MBO(経営陣による買収)又はEBO(従業員による買収)の代表的な方法として、SPC(特定目的会社)設立による株式取得の方法があります。
これは、経営陣又は従業員が設立したSPCが金融機関や投資ファンドから融資や投資を受け、その受けた資金でオーナーから自社株を買い取り、最終的にSPCと対象会社が合併してその収益力をもって、借入金を返済していくスキームとなります。
事業承継における民事信託の利用
事業承継においては、上記のとおり、他の相続人の遺留分が問題となることがあります。
そこで、民事信託を上手く使うことにより、遺留分の問題をクリアすることができる場合があります。
事例:相談者Xは、株式会社の代表取締役であり100%株式を保有しているオーナーである。家族は、長男と長女のみで妻とは既に死別している。会社の業績は好調で、自社株すべてを長男に承継させたいと考えている。なお、Xの財産は、会社の株式のみである。
問題点:財産が株式しかないため、Xの死後、遺産分割をすると長男と長女に株式が分散し、経営に支障が出るおそれがある。
遺言により長男に株式をすべて相続させても、長女から遺留分減殺請求を受け、株式が共有になったり、長男が相当の金銭を支払わなければならなくなったりする。
信託の構成
信託財産:株式
委託者:X
受託者:信託会社
受益者:当初X Xの死後の二次受益者:3/4長男、1/4長女
議決権行使の指図権:当初X Xの死後は長男
信託のメリット
Xの生前は、株式は信託会社に信託しているものの、自らが議決権を行使し、配当の受け取りも行うことができます。
Xの死後は、信託の効果により、長女に遺留分と同じ割合の受益権(株の配当等を受ける権利)を与えて、長女からの遺留分減殺請求を防ぐことができます。そして、長男は議決権100%の行使の指図権を、信託の効果により与えられますので、会社の経営権を100%承継することができます。
なお、このケースでは、後に長男が長女から受益権を買い取ることを想定しています。長男の死後は、信託が終了し、長男の相続人が残余財産を取得するよう指定しておきます。。
事業承継において、民事信託が最適な方法となるかどうかは、ケースバイケースですので、まずは当事務所にご相談下さい。