今回は、配偶者亡き後の財産管理、生活支援の問題を、民事信託(高齢者福祉信託)を使って解決する方法について解説します。
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想定事例~配偶者亡き後の妻(夫)の財産管理・生活支援の問題~
Q:Aと申します。私には、70代の認知症の妻Bがいて、同居して暮らしてます。私の財産としては、自宅と賃貸用マンション、それとまとまった預貯金があります。
また、子供は長男Cと長女Dがいるのですが、長男Cはいわゆるフリーター的な働き方をしており、ギャンブルもしますし、未だに親の金を当てにしているところがあって、私たち夫婦や長女Dとの関係は良好ではありません。
長女Dは、結婚しており、現在は私の家の近所に住んでいて、妻の面倒もよく見てくれています。
現在は、私が元気であるため、妻Bの面倒をみることができるのですが、もし私も病気なったり死んでしまったりした場合、残された妻Bが生活に困らないようにしたいのです。
また、相続については、長男Cには相続させず、長女Dに遺産全部を相続して欲しいと思っていますが、可能でしょうか?
(ご相談の内容は想定となります。)
A:ご相談のケースでは、民事信託を使うことによって、Aさんに万が一のことがあった後の妻Bさんの生活資金を確保し、Bさん亡き後の相続についても、長女Dさんに残りの遺産を承継させることが可能となります。
Aさんがご健康なうちに、受託者を長女D、委託者兼受益者をAとする信託契約を公正証書により締結し、Aさんの財産の管理をDさんに任せる体制を取ります。
Aさんに万が一の事があった際、二次受益者を妻Bとしておくことにより、受託者である長女Dが、妻Bに対して金銭を給付したり施設費を支払うことによって、妻Bの生活を確保することになります。
また、残余財産帰属者を長女Dとしておくことにより、妻Bの亡き後の信託財産の承継についても、長女Dのみを指定することが可能となります。
民事信託制度の利用のメリットと成年後見・遺言の利用との比較
成年後見制度との比較
ご相談のケースでは、妻Bに成年後見人を付けることによって、妻Bの財産管理を任せる方法も考えられるところです。
民事信託の利用では、財産管理の手当はできますが、身上監護(施設の入所契約など)や法律行為の取消しについては手当てできないため、成年後見の利用・併用にもメリットはあります。
ただ、民事信託を利用することにより、夫A亡き後の妻Bの生活費や介護費用の支払いは、受託者Dに任せることが可能なため、ほぼ成年後見制度に代替する効果を発揮することができます。
これにより、後見人に報酬を支払わなければならない点や、財産の柔軟な運用ができないという成年後見制度のデメリットを回避する事が可能となります。
遺言の利用との比較
また、信託を利用せずに妻Bに成年後見人を付けた場合、A亡き後の遺産分割協議で揉める可能性が出てきます。
というのも、妻Bの成年後見人や長男Cが法定相続分どおりの遺産の取得を主張することが想定されるためです。
これについては、Aが遺言を書いておくという対策も考えられます。
しかしながら、遺言によりA死亡時に全財産を妻Bに相続させることはできても、妻B死亡時の相続について、相続人を指定することはできません。
上記のように、民事信託を利用し、二次受益者の死亡などによる信託終了後の残余財産の帰属者を指定しておくことにより、二次相続(妻Bの死亡)についても相続人を指定するのと同じ効果を生じさせることが可能です。
遺産分割協議の回避と遺留分侵害額請求の回避の可否
遺産分割協議の回避
ご相談のケースでは、妻Bが認知症であるため、何も手当てをしないまま夫Aが亡くなってしまうと、相続人全員の合意が必要である遺産分割協議ができず、妻Bの成年後見人の選任申立てをして、後見人を遺産分割協議に参加させざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
上記のとおり、民事信託を利用しAの財産の受託者長女Dとしておくことにより、Aの死亡時の遺産分割協議を回避し、かつ、妻Bの生活の確保が可能となります。なぜなら、信託財産となったAの財産は、Aの相続とは切り離されるためです。
遺留分の問題と回避の可否
ご相談のケースにおいて、司法書士の回答のとおりのスキームで信託を組んだ場合、Aの死亡時には妻Bが全遺産の受益者となり、長男Cは何も相続しないこととなるため、長男Cから妻B(又は受託者である長女C)に対して遺留分侵害額請求をすることが可能ではあります。
この場合、受託者である長女Dが信託財産から長男Cに対して、金銭の支払いを行うこととなりますので、資金の確保を考えておく必要はあります。
次に、妻B死亡より信託が終了した際に、残余財産帰属者として長女Dが全てを取得するとした際にも、長男Cの遺留分の問題が生じます。
これについては色々な考え方があるところにはなりますが、長男Cの遺留分については、一次相続(夫Aの死亡時)に完結しており、二次相続(妻B死亡時)については及ばないとする考え方が有力です。
ただし、確定した判例が出ている訳ではないため、上記のとおり断定はできませんが、長男Cの遺留分が問題とならない可能性もあるところになります。
以上、妻が認知症を患っている場合の配偶者亡き後の財産管理・生活確保と相続の問題について、信託による解決方法を解説しました。
配偶者亡き後の高齢者福祉信託については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。