今回は、不動産の現物出資による増資の登記と所有権移転登記について、解説します。
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想定事例~不動産の現物出資による増資の登記と所有権移転登記~
Q:Aと申します。私は、オーナー兼社長として株式会社を経営していますが、規模拡大と追加融資を受けるために、資本金を増額したいと考えています。
また、会社の社屋(1500万円相当)が元々私の所有で、会社に賃貸していたため、この社屋を正式に会社の所有としたいとも考えています。
そこで、社屋の不動産を会社に出資するという方法を思いついたのですが、可能でしょうか?
(ご相談の内容は、想定です。)
A:結論から言うと可能にはなりますが、現物出資をするに際しては、裁判所に申立てをして検査役を選任して調査を受けるか、税理士等や不動産鑑定士の証明を受けなければなりません。
登記としては、会社の資本金及び発行済株式数の増加の登記と不動産の所有権移転登記を行うことになります。株主名簿の変更も忘れずにする必要があります。
また、現物出資をしたことによる譲渡所得税や不動産取得税、贈与税などの課税が生じる可能性がありますから、税理士にもご相談ください。
募集株式の発行等(増資)の手続き
ご相談のケースでは、新株を発行して、その出資を現物にて行うこととなりましたが、まず新株を発行するための手続きについて解説します。
ご相談の株式会社は、一般的な中小企業であり、株式の譲渡制限規定がある(=非公開会社)ものとします。
募集株式の発行等(増資)については、株主割当てと第三者割当ての2つの手続きがあります。
株主割当ては、既存の株主に対して、均等に新株を引き受けることのできる権利を与える手法になります。
一方で、第三者割当ては、新株の引き受けの申し込みをした者の誰に新株を割り当てるか、会社が株主総会又は取締役会によって決める手法になります。
いずれにせよ、非公開会社の場合は、株主総会の特別決議によって募集事項(新株の数、払込金額、現物出資、払込期間、資本金について)を決定する必要があります。
今回ご相談のケースでは、オーナー社長一人が出資をする形ですので、第三者割当てを行うこととなるでしょう。
また、出資者が一人で、新株の全部を引き受ける場合は、総数引受契約を締結する方法があります。
総数引受契約を締結すれば、募集事項等の通知→新株引受けの申し込み→新株の割当てという、募集株式の発行等のプロセスを省略することができます。
(ただし、総数引受契約を株主総会又は取締役会で承認する必要はあります。)
現物出資と検査役の調査
現物出資にて募集株式の発行等(増資)を行う場合、裁判所に申立てをして検査役を選任し、現物出資した財産の評価額の妥当性等について調査を受けなければなりません。
ただし、以下のいずれかの場合については、検査役の調査を省略することができます。
① 募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合
② 現物出資する財産の価額の総額が500万円を超えない場合
③ 現物出資する市場価格のある有価証券の価額が市場価格を超えない場合
④ 現物出資する財産の価額の相当性について、弁護士、税理士又は公認会計士の証明を受けた場合(現物出資財産が不動産の場合は、不動産鑑定士の証明も必要)
⑤ 現物出資財産が会社に対する金銭債権で、その評価額が当該債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合
現物出資による増資での資本金の額及び発行済株式数の増加の登記手続
不動産を現物出資し、検査役の調査を受けた場合の資本金の額及び発行済株式数の増加の登記申請に必要な書類は、以下のとおりとなります。
なお、増資は第三者割り当てによるものとし、対象会社は、株式の譲渡制限があり、取締役会が設置されているものとします。
〇必要書類
・登記申請書
・株主総会議事録・・・募集事項の決定を決議したものになります
・取締役会議事録・・・募集株式の割当てを受ける者を決議したもの。なお、総数引受契約を締結する場合は、その承認を決議したもの。
・募集株式の引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面
・払込みがあったことを証する書面
・検査役の調査報告書(検査役の報告に関する裁判の謄本)又は弁護士及び不動産鑑定士の証明書
・資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証する書面
・委任状
現物出資による所有権移転登記手続
現物出資した不動産については、出資者から会社に対して、所有権移転登記(名義変更)を行う必要があります。
登記原因は、令和〇年〇月〇日現物出資、となり、登録免許税は固定資産税評価額の2%となります。
所有権移転登記に必要となる書類は、以下のとおりです。
〇必要書類
・登記申請書
・登記原因証明情報・・・現物出資により所有権が移転した旨を記載したもの。不動産の給付日=移転の原因日付です。
・対象不動産の登記識別情報又は登記済証
・出資者の印鑑証明書・・・発行後3カ月以内です。
・会社法人等番号・・・申請書に記載します。
・委任状・・・出資者及び会社の司法書士に対する委任状です。
・対象不動産の評価証明書又は名寄帳等・・・登録免許税の計算のために必要です。
不動産の現物出資による増資の登記及び所有権移転登記については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。