今回は、中小企業における違法建築の問題とM&Aについて、解説します。
M&Aをする場面において、違法建築の問題が買収監査等により、クローズアップされることも多いです。
中小企業において、工場や倉庫といった設備、本社建物、事務所といった建物は、事業の運営に欠くことができないものですが、そこに存在しているだけの状態において違法性又は不適合性を有すると判断されてしまう場合があります。
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用途地域による用途制限
一定の地域・規模以上の建物について一定の建築等をしようとする場合には、都道府県等の建築主事等に対して申請し、建築確認を得なければなりません。
建築確認の審査事項の中には、建築物の用途に関する規制に適合しているかどうかという点が含まれており、都市計画法の用途地域ごとに建築が可能な用途の建物が決められています。
例えば、住宅、共同住宅は工業専用地域を除く全ての用途地域で建築できるが、危険性が大きい工場は、工業地域及び工業専用地域でしか建築できないなどといった具合です。
次に、建築確認が義務付けられる場合の一つとして都市計画区域又は準都市計画区域においてする建物の建築があります。
一方で、上記のような都市計画法上の用途地域というのは、必ず都市計画区域又は準都市計画区域内にそんざいするものです。
ですから、建築する建物について用途規制を受ける場合というのは、通常は建築確認を受ける必要があるものと判断できるでしょう。
上記のような用途制限に違反する建築は当然に違法です。また、建築確認を受けずにする建築も、やはり違法です。
しかし、場合によっては、現行の法令には適合した建物ではないが、建築当時の法令には適合している建物となっている場合があり、既存不適格建物と呼びます。
既存不適格建物は、違法ではありませんが、様々な問題がありますので、要注意です。
接道義務
都市計画区域又は準都市計画区域内においては、建築物の敷地は、原則として幅員4m以上(特定行政庁が指定する場合は6m以上)の道路(自動車専用道路等を除く。)に2m以上接していなければなりません。
(この要件は条例により加重される場合があり、また、一定の空地を有する土地で建築審査会の同意の上許可を得たものはこの接道義務に従う必要がありません。)
また、都市計画区域又は準都市計画区域が指定され、建築基準法が施行された際に存する幅員4m未満の道路で現に建築物が立ち並んでいる特定行政庁が指定したものは、接道義務上の要件を満たした道路とみなされます(建築基準法42条2項。いわゆる2項道路)。
これにより生じるのがいわゆるセットバックであり、沿道の敷地の接道部が前面道路の幅員4m又は6m等を確保する範囲で道路とみなされるため、再築・改築する際には道路の中心線から2m又は3m等の範囲内には建物、塀等を設置できません。
建ぺい率
建ぺい率とは、建築物の建築面積(水平投影面積とほぼ同じ)の敷地面積に対する割合率(同法53条1項)をいい、その目的は主に建物の延焼防止にあるとされています。
建ぺい率は、都市計画法の用途地域に応じて、都市計画の中で定められています。
延焼のおそれが小さい角地や防火地域内の耐火建築物(建蔽率が10分の8の地域を除く。)については、10分の1を加算して緩和されます。
なお、建蔽率が10分の8と定められた地域内で防火地域内の耐火建築物や、派出所、公衆便所等といった公共の建物については、建蔽率が100%となるため規制が適用されません。
容積率
容積率とは、建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合をいい、その目的は道路や下水等の公共物の処理能力の限界を超えることを防ぐことにあるとされています。
容積率は、用途地域に応じて都市計画の中で定められる数値と12m未満の前面道路の幅員に一定の割合を乗じて定まる数値のいずれか小さい方となります。
なお、容積率については、都市計画の高度利用地区等における規制や総合設計制度、前面道路が特定道路に接する場合の緩和、地下室や共同住宅の共用部分の特例など様々な特例・緩和措置が存在するので注意を要します。
上記の建ぺい率、容積率の規制についても、接道義務と同じく都市計画区域又は準都市計画区域内における規制となっています。
建ぺい率、容積率、前面道路の問題
実務上よく見受けられるケースとして、中小企業の本社建物や工場の敷地に、倉庫や車庫等の離れを追加で建築した際に建ぺい率違反、容積率違反となってしまい行政から撤去の指導を受けてしまうというものや、建物の前面道路の幅員が4m未満となってしまっているものなどがあります。
なお、(準)都市計画区域内においては、面積が小さい建物であっても、新築をする場合は建築確認が必要(10㎡以下であっても同様)なので、上記のような建ぺい率又は容積率違反での新築は建築確認も受けていない可能性もあるでしょう。
M&Aの最終契約書での対応
M&Aの最終契約書である株式譲渡契約書などにおいては、対象会社の所有する不動産に違法性がないことを表明するのが通常です。
しかし、上記のような違法性が発見された場合は、違法であることを株価評価に織り込んだ上で、表明保証から除外することとなるでしょう。
M&Aに関する契約書作成やクロージング書類の作成は、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。
(今回の記事は、著書(共著)である「買手の視点からみた中小企業M&AマニュアルQ&A」から一部記載を引用しています。)