今回は、登記記録に残っている古い抵当権、いわゆる「休眠抵当権」の抹消について、私の経験などに基づいて、解説します。
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明治時代の抵当権が残っている
土地の登記記録を見ると、「抵当権設定 明治○年○月○日設定 債権額 金50円 抵当権者 何某何左衛門」という抵当権が設定されていました。休眠抵当権です。(事例は想定となります。)
債権額50円ですから、その影響はわずかなと判断され放置されてきているのでしょうが、抵当権を実行されて競売に掛けれてしまうリスクはあるのです。
休眠抵当権が残っていると、金融機関が1番抵当権を設定できないことを理由に融資を行わないこともあるようですし、その抹消について検討することとなりました。
なお、私、藤田純平は、国土交通省の職員時代や(株)日本M&Aセンターの社員時代に、休眠抵当権抹消の実務に関与したことがありましたので、そのノウハウに基づいて、以下説明致します。
休眠抵当権の抹消の方法
方法としては、抵当権者(被相続人)の相続関係を証する戸籍を一式収集して相続人を確定し、遺産分割協議等により被担保債権の相続人を決めます。
そして、その相続人に対して、元金金50円とその利息を、抵当権設定当時の債務者の相続人が弁済することになります。
登記の順序としては、①相続を原因とする抵当権移転、②弁済を原因とする抵当権抹消となります。
しかしです、今回の抵当権者や債務者は、明治時代、下手をすると江戸時代の生まれの人です。
抵当権者や債務者の相続人を全て追うとその人数が100人規模になる可能性もありますし、江戸時代となるとそもそも戸籍がありません。
仮に相続人を確定できたとしても、中には行方不明者がいるかもしれませんし、不在者財産管理人を選任していたら大変な時間と手間がかかってしまいます。
単独申請での抹消と注意点
そこで登場するのが不動産登記法第70条第3項後段です。
登記義務者(休眠抵当権者)の所在が知れないため、共同して抹消登記申請できない場合において、被担保債権の弁済期から20年を経過し、その後に元本、利息及び損害金の全額を供託すれば、登記権利者(土地所有者)は、単独で抹消登記申請できると規定されています。
つまり、休眠抵当権者の相続関係については、登記先例上は調査する必要はなくなり、登記申請に関与させる必要もなくなります。
抹消登記申請の添付書面は、①供託書正本、②行方不明証明書、③弁済期証明書、④代理権限証書となります。
③については、通常、閉鎖登記簿を確認すると弁済期が登記事項として記載されていますし、弁済期がない場合は債権の成立の日を弁済期とすることができます。
取扱いが難しいのが②の行方不明証明書で、通常は、被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する情報(配達証明付郵便)か市町村長が発行する不在住証明となります。
添付書類としては、簡単なので登記を完了させること自体はできるのですが、問題は実体上も本当に行方不明であったかどうかです。
相続人の一人の存在を聞いていたにもかかわらず、受領催告書が宛所不明として返戻されたことをもって供託の上、抹消登記申請をした司法書士が懲戒となった事例があるので、その点に注意は必要です。
(以上、想定事例を元に、(株)日本M&Aセンター法務室著「買手の視点からみた中小企業M&AマニュアルQ&A」の中の筆者を藤田純平とするコラムの記事を引用した上で、組み合わせて記述しました。)
休眠抵当権の抹消や必要となる供託手続については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。