今回は、離婚に伴う財産分与による所有権移転登記と住所氏名変更登記の関係、同時決済の可否について解説します。
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財産分与による所有権移転登記と名変
原則的な考え方
離婚に際して、財産分与として不動産を譲渡することはよくあります。例えば、夫の名義となっている自宅を妻に分与することがあります。
また、夫婦の共有となっている自宅の夫の持分を妻に分与することもありますし、逆に妻の持分を夫に分与することもあります。
不動産の所有権、共有持分を財産分与した場合は、所有権移転登記(名義変更)をすることになり、その前提として、登記義務者(財産分与する者)の住所氏名変更登記(名変登記)が必要となる場合があります。
元夫から元妻への財産分与による移転登記をする場合で、元妻が婚姻前の氏に復氏するときに、移転登記の添付書類が問題となります。
例えば、令和8年3月1日に離婚協議が成立して、夫婦両方が登記に必要な書類に押印して司法書士に交付し、令和8年3月5日に離婚届を提出して財産分与の効力が発生したとします。
司法書士としては、二重譲渡や差押えのリスクがあるため、可能な限り3月5日当日に登記申請をしようとします。
ここで問題になるが、元妻の氏です。3月5日の離婚届提出前までは婚姻時の氏ですが、同日の離婚届提出後は、婚姻前の旧氏に復氏しています。
登記申請は、もちろん離婚届の提出後(財産分与の効力発生後)にすることになるので、元妻の旧氏(婚姻前の氏)が記載された住民票が必要となってしまいます。
ところが、元妻が復氏をしたことは、すぐには住民票や戸籍には反映されず、市役所内部の処理に1~2週間かかってしまいます。登記申請をすべき3月5日の時点では、復氏が記載された住民票の入手が不可能なのです。
この原則的な考えを貫くと、離婚成立日には財産分与による移転登記を申請することはできず、1~2週間の登記空白が生じることになってしまいます。
復氏前の氏での所有権移転登記の可否
上記の問題を解決するには、結論から申しますと、復氏前の婚姻時の氏のままで、所有権移転登記をするということになります。
離婚届と同時に届出をすることで、婚姻時の氏を続けて名乗ることのできる婚氏続称の制度があります。つまり、上記事例での3月5日の離婚届提出後の時点において、妻は婚姻時の氏であり続けており、氏名変更登記をする必要がない可能性があるということです。
登記官には、形式的審査権しかありませんから、登記権利者である元妻が、婚姻時の氏のまま移転登記を申請しても登記を通すしかないでしょう。
登記空白を防ぐためには、委任状には婚姻時の氏で署名を受け、移転登記申請書の登記権利者(元妻)の氏は婚姻時の氏にしておき、移転登記完了後に、元妻の氏名更正登記を申請して旧氏での登記にする形にせざるを得ないと考えます。
この方法は、一見すると公正証書原本不実記載罪の構成要件に該当するようにも見えます。しかし、その保護法益は、文書に対する公共の信用であり、上記の婚姻時の氏での登記は保護法益を侵害しているとは言えないものと考えます。
また、上記の婚姻時の氏での登記は、登記空白を防ぐためのやむを得ない措置でもありますから、違法性もないと言えるのではないでしょうか。
もちろん、違法であると考え、上記の方法を避けるという判断もあるかとは思います。最終的には、読者の皆様の自己判断となります。
財産分与による移転登記の同時決済
元妻から元夫に不動産を財産分与するのと引き換えに、元夫が元妻に対して、慰謝料として金銭を支払うとする離婚協議が成立し、同時決済をする必要が生じることがあります。
つまり、離婚届を提出日に慰謝料の支払いと引き換えに登記書類を交付し、その日のうちに不動産の移転登記を申請する、という形です。
(離婚協議書の締結も同日であることも考えられます。私は、公証役場で慰謝料を数えたこともあります。)
この同時決済の場合で、妻が復氏するときは、前提としての名変(氏名変更)登記が必要となりますが、上記の問題があり、復氏を反映した戸籍が決済当日に入手不可能です。
この場合も、登記義務者である妻は、婚姻時の氏で登記申請をせざるを得ないものと考えます。上述のとおり、制度上は婚氏続称の可能性がある以上、形式審査権しかない法務局は却下はできないものと考えられます。
この方法についても、厳密に考えると虚偽の住所での委任状作成や虚偽の住所での登記申請書作成となる可能性があり、違法であると考えるならば避けるべきです。
しかし、登記空白を避け不動産登記法1条に言う取引の安全と円滑に資するという利益と、文書の信用という利益を比較衡量して考えるべきではないでしょうか。最終的には、読者の皆様の自己判断となります。
なお、旧氏への氏名変更登記を前提登記として申請して、添付書類である復氏した戸籍と住民票を、後日補正で補完する方法も考えられるところではあります。
以上、離婚に伴う財産分与による所有権移転登記と住所氏名変更登記の関係、同時決済の可否について解説しました。
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