今回は破産の免責と抵当権の抹消について解説します。
破産による競売で落札されない場合の放棄
とある個人事業主のAさんが、借り入れが膨らみすぎて返済ができなくなり、破産手続きを行ったという想定事例で考えてみます。
Aさんは自宅ではない土地と建物(以下「甲不動産」といいます。)を所有していて、そこに事業の借り入れのため金融機関の抵当権が設定されているとします。
破産手続きが進行していく中で、甲不動産が何度か競売にかけられましたが、結局買手がつかず、破産管財人は甲不動産を破産財団から「放棄」しました。
その後、Aさんの免責許可は無事降りました。
その結果、甲不動産はAさんの所有として戻ってきた(=差押えが取り下げられた)格好となり、そこに設定されている抵当権も残ったままとなりました。
このケースでは、残ってしまった抵当権は抹消できないのか?という疑問が沸いてきます。
破産財団から放棄された物件の抵当権抹消と消滅時効の関係
まず、残った抵当権の被担保債権はどうなったのかを考えます。多数説によると、免責となった破産債権は自然債務として残るとされています。
自然債務とは、裁判などで請求を強制する力を失ったもので、債務者からの自発的な弁済はできる債務です。
つまり、抵当権の被担保債権は、自然債務として残ったと整理できますから、免責を受けたことをもって被担保債権は消滅はしておらず、抵当権の抹消の根拠とすることはできないと考えられます。
そうすると、消滅時効によって抵当権を抹消するしかないのですが、破産法による免責を受けた債権というのは時効によって消滅しないという判例がありますから、抵当権そのものの消滅時効を期待するしかなくなります。(金融機関が、抵当権を放棄してくれれば別ですが、一般的には難しいと思われます。)
抵当権そのものは20年で消滅時効にかかります(民法166②)が、そこで問題となるのが民法396条の
「抵当権は、債務者及び設定者に対しては、被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しない」
という規定です。
これについては、平成30年の最高裁判例によれば、被担保債権が免責を受けた場合には、民法396条の規定は適用されず、抵当権のみが20年の消滅時効にかかると判示しています。
気の長い話になりましたが、今回のようなケースにおいて、完全に抵当権を抹消してスッキリするためには、20年かかるということになります。
破産手続きや抵当権抹消登記などの手続きについては、お気軽に豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。