今回は、不動産の時効取得と所有権移転登記請求訴訟について解説します。
このページの目次
自宅の登記名義人が知らない人になっている?!
「長年住んでいる自宅の登記簿を取ったら、所有者の名義が自分や父母・祖父母ではなかった」という事態が生じることがあります。
実は、不動産の現状と登記記録が食い違うことは珍しくありません。例えば、高齢の親族や知人等から土地や建物を口頭で譲り受けたものの登記をしないまま年月が経過し、いざ名義変更しようと調べてみたら、登記名義人が別人のままだった…といった事例は少なくありません。
まずは現在の登記名義人を確認することが重要です。登記事項証明書は法務局やインターネットで取得することができます。登記事項証明書を見ることで、不動産の所在地・面積だけでなく現在の所有者(登記名義人)が誰なのかが分かります。
名義人が父母や祖父母等であれば、相続登記をすれば解決するのですが、相続とは関係ない第三者の名義である場合はどうなるのでしょうか。
他人名義のままでは、将来その不動産を売ったり相続したりできないため、登記名義を自分に変更する必要があります。
その方法の一つが取得時効の制度を利用することです。これは、一定の条件の下で長年不動産を占有している人に所有権を認め、登記名義を変更することができます。
では、具体的に取得時効とはどのような制度で、成立するためには何が必要なのか、以下に解説します。
取得時効が成立するための条件
取得時効とは、他人の物(不動産)を一定期間占有し続けることで、その物の所有権を取得できるという法律上の制度です。
民法第162条に定められており、長年続いた事実上の占有状態を法的な権利関係に反映させる仕組みともいえます。取得時効が成立するためには、主に次の3つの条件を満たす必要があります
-
所有の意思をもって占有していること:借地借家や一時的に預かっている場合などではなく、自分が所有者のつもりでその不動産を使っていること。例えば「自分の家だと思って住んでいる」といった状態です。
-
平穏かつ公然と占有していること:暴力や脅迫によって占有を始めたのではなく(平穏)、隠れることなく外部から見ても占有していると分かる形で利用していること(公然)。日常生活の中で普通にその土地建物を使い続け、周囲からも所有者のように扱われていればこの要件を満たします。
-
一定期間、継続して占有していること:法律で定められた期間、その不動産の占有を中断せずに続けていること。
では「一定期間」とはどれくらいの長さでしょうか。民法は占有開始時の事情に応じて10年または20年と規定しています。
具体的には、占有を始めた時にその土地建物が自分のものだと信じ、しかもそれを信じることに過失がなかった場合(=善意無過失)には10年間で時効が完成します。
一方、占有開始時に他人の物だと知っていた場合や、知らなくても当然知り得たはずだと判断される場合(=悪意または有過失)には20年間の占有継続が必要です。
例えば、親戚から口頭で家を譲ってもらい自分のものと信じていたケースでは善意無過失と認められれば10年で、他人の土地と知りつつ無断で使っていたようなケースでは20年経過して初めて、取得時効が成立すると考えられます。
以上の要件(所有の意思・平穏公然・必要な年数の経過)を全て満たせば、法律上はその占有者が新たな所有者となる権利を得ます。ただし、重要なのは取得時効は自然に登記名義が書き換わるわけではないという点です。
権利を主張するためには、自分から「時効が完成したので所有権を取得した」と時効の援用と呼ばれる意思表示を、相手方に対して行う必要があります。
ただし、時効援用の意思表示をしたからといって、それだけで不動産の名義が変わるわけではありません。相手方が、登記名義の移転に任意に協力してくれない場合は、訴訟手続きを取る必要があります。
所有権移転登記請求訴訟の流れ
取得時効が成立し援用をした場合、登記名義を自分に移すための手続きは大きく分けて2通りあります。相手方(現在の登記名義人やその相続人)が協力的かどうかで流れが変わります。
1つ目は任意の名義変更手続きです。これは現在の名義人にも協力してもらい、双方で所有権移転の登記申請を行う方法です。登記原因を「時効取得」とする所有権移転登記を共同申請する形で手続きを行います。
具体的には、現在の登記名義人(義務者)と新たに所有者となる人(権利者)が共同で、「原因:平成○年○月○日時効取得」として所有権移転登記を申請します。この方法であれば裁判をせずに名義を書き換えられるため、時間や費用の負担も比較的少なくて済みます。
しかし実際には、名義人が権利を主張し時効取得を認めていない等、相手方の協力を得られないケースが少なくありません。任意の協力が難しい場合、2つ目の方法として所有権移転登記請求訴訟を検討することになります。
これはいわゆる取得時効に基づく登記請求訴訟を起こし、判決によって強制的に名義変更を実現する方法です。
具体的には、「被告は、原告に対して、別紙物件目録記載の不動産につき、平成〇〇年〇〇月〇〇日時効取得を原因として、所有権移転登記手続をせよ。」との判決を求めていきます。
また、登記名義人が死亡しており、時効取得の起算点が当該死亡の日の後の場合は、判決書を代位原因証明情報として、代位によって相続登記を入れてから、時効による所有権移転登記を入れることとなります。
裁判手続きに移行する場合、判決を得るまでには時間と費用がかかります。証拠集めの労力や、相手方が複数の相続人にまたがる場合の手続きの煩雑さもあります。
また特別代理人や財産管理人の選任が必要になるケースでは、その申立てや報酬の負担も発生します。
もっとも、判決という公的な裏付けを得ることで、不動産の権利関係をスッキリ確定させられるメリットは大きいでしょう。次に、こうした取得時効の手続きを進める上で司法書士が具体的にお手伝いできることを解説します。
取得時効の手続きで司法書士ができること
取得時効による名義変更は、登記や裁判に関する専門知識を要する複雑な手続きです。ここで、司法書士という専門家がどのようにサポートできるかをご紹介します。
登記簿の確認と調査
司法書士は依頼を受けるとまず対象不動産の登記事項証明書を取得し、現在の名義人や権利関係を確認します。加えて、公図や測量図、固定資産評価証明書など必要な資料を集め、基本的な状況を把握します。依頼者の方に占有の経緯を詳しくヒアリングし、取得時効の要件を満たしそうか判断します。
相手方(登記名義人)の調査・連絡
現在の名義人が誰か、その相続人がいる場合は戸籍などから特定します。判明した相手方に対し、まずは任意での名義変更に応じてもらえないか打診することもあります。
長年放置されていた不動産でも、専門家から事情を説明してもらえれば相手方が協力してくれるケースもあります。
話し合いがまとまれば、司法書士が双方から必要書類(印鑑証明書や委任状など)を預かり、時効取得を原因とする所有権移転登記の申請手続きを代行します。(ただし、弁護士法に違反しない範囲内での対応となります)
簡裁訴訟代理
相手方の協力が得られない場合や交渉が決裂した場合は、司法書士が裁判手続きの代理・サポートをします。
認定司法書士であれば、簡易裁判所管轄の訴額の範囲内で依頼者の代理人となって訴訟手続きを進めることも可能です。訴状や陳述書、証拠説明書など各種書面の作成を代行し、必要に応じて裁判所への提出・出廷の手配をします。
被告が行方不明で公示送達が必要な場合や、特別代理人・財産管理人選任の申立てが必要な場合にも、書類作成業務として受任してサポートします。
※簡易裁判所で扱える訴訟(訴額140万円以下)かどうかは物件の固定資産税上の評価額によります。土地の場合は、評価額に1/2を乗じて訴額を計算しますので、評価額280万円まで司法書士が代理できます。
本人訴訟支援
土地の評価額が280万円を超えていたり、建物の評価額が140万円を超えている場合でも、司法書士による本人訴訟支援(裁判所提出書類の作成)により、裁判を遂行することもできます。
司法書士には、裁判所に提出する書類の作成権限があり、これには金額の制限はありません。
法廷にはご本人様が出頭し弁論する必要がありますが、裁判所に提出する書面は司法書士が作成しサポートします。書面による証拠が揃っている場合は、本人訴訟でも問題なく対応できるケースが多いです。
本人訴訟支援について詳しくは、こちらをご覧ください。
登記手続き
裁判で判決を得た後、その内容に基づく登記申請も司法書士が代理で行います。判決書や必要書類を整えて法務局に申請し、無事にご依頼者様名義への所有権移転登記が完了するまで対応します。
登記の専門家である司法書士に依頼すれば、複雑な書類の準備や法務局とのやりとりも任せられるため安心です。
以上のように、取得時効による名義変更については、調査の段階から交渉、そして必要なら裁判手続きと登記申請まで一貫して司法書士がサポートできます。
ご自身で対応するのが難しい複雑なケースでも、経験豊富な専門家に任せることでスムーズに解決できる可能性が高まります。
時効取得による移転登記請求訴訟や所有権移転登記手続きは、豊中司法書士ふじた事務所にご相談ください。