今回は、想定の相談事例に沿って、建物の取り壊しと滅失登記、賃貸借契約の解除について、解説します。
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想定事例(遠方の建物の取り壊しによる登記と賃貸借の解除)
Q:父が亡くなりました。父は、遠方の甲市に平成5年に建築した住宅である建物を所有していましたが、もう誰も使わない上に敷地は賃借しています。
建物は取り壊しをして、敷地の賃料は支払いを止めたいと考えていますが、どのような手続きを取ればいいでしょうか?
また、事前に相続登記を経ておく必要はありますでしょうか?なお、父の相続人は、母と私(X)と妹の3人です。
(※相談内容は想定となります。)
A:まずは、敷地の賃貸借契約書を確認して、賃借人からの契約解除が可能かどうか確認します。解除権が無い場合は、賃貸人との合意解除をするしかないので、賃貸人の意向を確認します。
その後、相続人全員の合意で、建物を取り壊します。建物の滅失登記については、相続人の一人又は全員から申請できます。
なお、前提として相続登記を経ておく必要はありません。
賃貸借契約の解除について
敷地の賃貸借契約については、その種類や特約によって、解除できるかどうかが異なります。
定期賃貸借の場合
敷地の賃貸借契約が平成4年8月1日以降であるので、定期借地契約である可能性があります。
この場合、契約期間が決まっているので、原則としてその期間が満了するまで賃借を続けることになります。
ただし、契約の中に、期間途中において賃借人からの申し入れによって解約できるなどといった特約がある場合は、賃借人からの一方的な意思表示により解除することができます。
普通賃貸借の場合
敷地の賃貸借契約が普通借地契約である場合は、期間の定めがある場合とない場合があります。
期間の定めがない場合は、借地借家法の規定により、契約期間は30年となります。
期間の定めがあり、それが30年以下の場合は、借地借家法により30年に引き直されますし、また、30年より長い期間の定めは、有効となります。
上記のように、契約に期間が定められる以上、期間満了までは賃借を続けることが原則となります。
しかし、借地契約中に、契約の中に期間途中において賃借人からの申し入れによって解約できるなどといった特約がある場合は、借地人からの一方的な意思表示により解約できるものとなります。
更新の有無による違い
本件の建物は、建築してから26年しか経過していないので、借地契約は一度も更新されていないものと考えられます。
ただ、(30年以上が経過し)借地契約が更新されている場合で、更新後に建物が滅失(取り壊し)したときは、賃借人からの申し入れにより3カ月で借地権が消滅する旨の規定が借地借家法にありますので、今回の事例では、将来的にはこの規定の適用の余地があります。
合意解約はいつでも可能
以上が、借地人から契約を解除するための法的な理論になりますが、もちろん、賃貸人と賃借人の合意による解除はいつでも可能ですので、賃貸人の意向をよく確認することが必要です。
建物の取り壊しをするには
賃貸借契約の解除の見通しが付いたら、建物の取り壊しにかかりますが、本件の建物は、父の相続人である私と母と妹の3人共有となっています。
共有物の処分は、共有者全員の同意が必要(民法251条)ですから、取り壊しを行うに当たっては、相続人3人全員が同意する必要があります。
建物滅失登記と相続登記
建物を取り壊したら、建物滅失登記を申請して、法務局にて登記記録を閉鎖してもらうこことなります。
今回の事例では、建物の登記名義人が父で、父の死亡後に相続人により建物を取り壊すこととなりますが、この場合に、まず相続登記を申請してから建物滅失登記を申請する必要があるのでしょうか?
登記実務上は、相続登記を前提として申請する必要はありません。
登記名義人の相続開始後に建物が滅失したときでも、相続登記を経由することなく、相続人である書面を提供して、直ちに、相続人の全員又は一人から、建物滅失登記を申請できます。
賃貸借契約書の作成や解除、建物滅失登記や相続登記については、豊中司法書士ふじた事務所にご相談下さい。なお、建物滅失登記については、懇意の土地家屋調査士をご紹介します。